「うちの子って話すときいつも顔が近すぎる」
「初対面の人にもベタベタ触ってしまう」
こうした子どもの距離感の問題に、悩む保護者は少なくありません。
文部科学省の調査では、通常学級に在籍する児童生徒のうち8.8%(35人学級で約3人)が、学習面または行動面で著しい困難を示すことがわかっています。
もちろん、対人距離のとり方に課題を抱える子どもも、この中に含まれます。
では、親として距離感をどう教えるのが正解なのでしょうか?
本記事では、距離感が近い人の特徴や原因、発達障害との関係について解説します。家庭で試せる距離感の教え方にも触れますので、ぜひ参考にしてください。
距離感が近い人とは?

距離感が近い人とは、相手との物理的な距離、心理的な距離を保つことが難しい人をいいます。多くの場合、無意識で、話をする時に顔が近すぎたり、初対面なのに親しげに接したりする特徴があります。
人には「パーソナルスペース(対人距離)」と呼ばれる、他者に侵入されると不快に感じる空間があります。アメリカの文化人類学者エドワード・ホールは、これを以下の4つの領域に分類しました。
| 距離の種類 | 範囲 | 対象 |
|---|---|---|
| 密接距離 | 0〜45cm | 家族・恋人 |
| 個体距離 | 45cm〜1.2m | 友人 |
| 社会距離 | 1.2〜3.5m | 知人・仕事相手 |
| 公衆距離 | 3.5m以上 | 講演・公的な場 |
パーソナルスペースは年齢とともに自然に広がり、12歳頃には大人と同様の距離感を意識し始めるといわれています。
ただし、この発達には個人差があり、適切な教育や体験がなければ拡大が遅れるとされています。環境や関わり方によって、身につくスピードは変わってきます。
つまり、距離感が近い人は、この「心地良い距離」がどのくらいなのかを、まだ十分に理解できていない状態なのです。
人との距離感が近い子どもの特徴

子どもの距離感の近さには、いくつかの特徴的なパターンがあります。「わざとやっている」「困らせようとしている」と感じることがあるかもしれません。
しかし多くの場合、子ども自身も無意識に行動しているのです。
無意識に人に近づいてしまう
距離感が近い子どもは話に夢中になると、いつの間にか相手の顔のすぐ近くまで寄っていることがあります。本人は「普通に話している」つもりでも、相手は後ずさりしたくなるほど近いのが特徴です。
また、話しながら相手の腕を触ったり、肩に手を置いたりする子もいます。親しい友達同士ならまだしも、初対面の相手やあまり親しくない人に対しても同じように接してしまいます。家族との距離感をそのまま他の人にも適用してしまうのです。
場面に関係なく距離が一定
通常、人は相手との関係性や場面に応じて距離を調整します。親しい友人には近づき、初対面の人や目上の人にはある程度の距離を保つのが一般的です。
距離感が近い子どもは、この「場面に応じた調整」が苦手です。子どもの場合、先生や友達、初めて会った人にさえ、同じ距離で接してしまいます。
「誰に対しても人懐っこい」と好意的に受け取られることもありますが、相手によっては「馴れ馴れしい」と感じられるかもしれません。
注意されても改善しにくい
距離感の問題は、一度の注意ではなかなか改善されません。「もう少し離れて」「近いよ」と注意しても、すぐにまた近づいてしまいます。
理由はシンプルで、「離れて」と言われても、どのくらい離れれば良いのか具体的にイメージできないためです。
距離感が近くなる原因とは?

距離感が近くなる原因はひとつではありません。子どもの発達段階や特性によって、さまざまな要因が考えられます。
ボディイメージの発達が未熟
ボディイメージとは、自分の体の大きさや位置、動きを認識する感覚のことです。いわば「体の地図」のようなもので、この感覚が未発達だと、自分と相手との距離をつかむのが苦手になります。
ボディイメージは生後8か月頃から芽生え、10歳頃にほぼ完成するといわれています。この発達を支えるのが、筋肉や関節から脳に送られる「固有受容覚」と呼ばれる感覚です。
固有受容覚が未熟だと、自分の体の位置や動きを正確に把握できません。その結果、力加減の調整が難しかったり、他者との距離を正確に判断できなかったりします。
たとえば、友達を軽く叩いたつもりが痛がられてしまったり、狭い廊下で人とぶつかりやすかったりする場合は、ボディイメージの発達が関係している可能性があります。
相手の反応を読み取りにくい
通常、相手が後ずさりしたり、目をそらしたりすれば「近すぎたかな」と気づいて距離を取ります。しかし、これらの非言語的なサインを読み取るのが難しい子どもは、相手の不快感に気づかないまま近づいてしまいます。
これは「相手の気持ちを考えていない」のではありません。相手の気持ちを読み取る「認知のプロセス」に困難を抱えているために起こります。表情や身振りといった言葉以外のサインから、相手の感情を推測することが苦手なのです。
空間認識が苦手
空間認識とは、物や人の位置関係、距離、方向などを把握する認知能力です。3〜5歳頃に急速に発達し、10歳頃にほぼ完成するといわれています。
この能力が苦手な子どもには、日常生活でさまざまな困難が現れます。
たとえば、地図を読むことや図形の問題を解くことが苦手だったり、球技でボールとの距離感がつかめなかったりします。列に並ぶときに前の人との間隔が詰まりすぎてしまうのも、空間認識の弱さが原因とされています。
距離感が近い子どもと発達障害の関係
距離感の問題は、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)の特性と見られることがあります。ただし、距離感が近いからといって、必ず発達障害があるわけではありません。
詳しく見ていきましょう。
ASDは心の距離をつかむのが苦手
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、物理的な距離だけでなく「心の距離」をつかむのがどうしても苦手です。
その特性のひとつに「社会的コミュニケーションの困難」があります。これはDSM-5(精神疾患の診断基準)における中核的な特徴で、関係性に応じた距離の取り方、場面に応じた振る舞いを苦手としています。
また、ASD(自閉スペクトラム症)の子どもは「心の理論」の発達が遅れやすい傾向があります。
心の理論とは、他者が自分と異なる考えや気持ちを持っていることを理解する力です。そのため、相手が不快に感じているサインに気づきにくく、距離感の調整が難しいと考えられています。
ADHDの衝動的な近さ
ADHD(注意欠如多動症)の特性のひとつである「衝動性」は、思いついたらすぐに行動してしまう傾向を指します。「この人に話しかけたい」と思った瞬間に体が動いてしまい、適切な距離を取る前に相手に近づいてしまうわけです。
また、ADHD(注意欠如多動症)の子どもは距離感のルールを理解していても、興奮したり楽しくなったりすると、学んだはずのルールが機能しなくなります。これは努力不足ではなく、脳の機能的な特性によるものです。
距離感の近さは男性と女性で違う?
距離感の近さそのものに、生物学的な男性と女性の差はありません。ただし、発達障害の診断率には男女差があるため、「男性の方が距離感の問題を抱えやすい」と誤解されることがあります。
CDC(米疾病管理予防センター)の調査では、ASD(自閉スペクトラム症)の診断率は男児が女児の約3.4倍高いと報告されています。同じくADHD(注意欠如多動症)についても、男児が女児の約1.8倍高い有病率を示すとされています。
一方で、女性に問題が少ないわけではありません。
女性は社会的なルールを模倣する力が高く、困難を抱えていても表面化しにくい傾向があります。性別で判断せず、子ども一人ひとりの様子をよく観察することが大切です。
距離感が近い子どもとの接し方は?

ここでは、家庭でできる距離感の教え方をいくつかご紹介します。大切なのは、抽象的な「距離感」という概念を、目に見える形に変換して伝えることです。
具体的な距離を数字で示す
「もう少し離れて」といった曖昧な指示では、子どもには伝わりません。具体的な数字や目安を示すことで、理解しやすくなります。
たとえば、手を伸ばしてまだ触れないくらいの距離を「ちょうど良い距離」として教えてみましょう。実際に子どもの手を伸ばさせて、「ここまでが『正しい距離』だよ」と何度も繰り返します。これで、適切な距離感を体で覚えていきます。
最初は家族で練習し、慣れてきたら友達や先生など、相手によって距離が変わることも少しずつ教えていくと良いでしょう。
そして距離感が近い子どもは、初対面の相手にも矢継ぎ早に質問してしまいがちです。そこで、「初対面の人には3つまでしか質問しない」といった数のルールを作ってみましょう。
会話の前に「今日の質問は3つまでだよ」と約束します。質問するたびに指を1本ずつ折っていくことで、子ども自身が会話のペースをコントロールできるようになります。
こちらもまた、適切な距離感を身につけるためのトレーニングです。
視覚的な目印を使って練習する
フープやマットを使って「この中には入らないよ」と視覚的に教えましょう。物理的な境界線があると、子どもは距離を意識しやすくなります。
また、絵カードやピクトグラムを使って「この距離が心地良い」「この距離は近すぎる」と教える方法もあります。イラストで表情の違いを示すことで、相手の気持ちも一緒に学べます。
視覚的な情報は、言葉だけの説明よりも記憶に残りやすいためおすすめです。
ロールプレイで距離感を体感させる
親御さんが「困った顔」「嫌がる顔」を実際にやって見せ、「この表情が見えたら、話しかけるのをやめようね」と繰り返し教えます。上手くできた時は「今日は途中で気づけたね」と具体的に褒めることで、子どもの自信につながります。
よくある質問
最後に、子どもの距離感におけるよくある質問と回答をまとめました。
距離感が近い子は発達障害ですか?
距離感が近いだけでは発達障害の診断に至りません。医学的な検査や専門家による評価が必要です。
前提として、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)のある子どもは、対人コミュニケーションに困難を抱えやすく、距離感が近くなる傾向があります。ただし、これは特性のひとつであり、子ども全体を表すものではありません。
まずは「なぜ距離感が近いのか」を観察することから始めてみてください。どうしても気になるなら、かかりつけの小児科医や地域の発達支援センターに相談しましょう。
無意識にやってしまう場合はどうする?
その場で具体的に教えることが大切です。
たとえば、公園で初めて会った子に近づきすぎたときは、「この子は今日初めて会ったね。腕を伸ばしたときの長さくらい離れようね」と、状況とルールをセットで伝えましょう。
スーパーで知らない人に話しかけようとしたときは、「あの人は知らない人だから、今日はあいさつだけにしようね」と事前に声をかけてみてください。
一度で完璧にできなくても大丈夫です。繰り返し伝えることで、少しずつ適切な距離感が身についていきます。
距離感の近さは治りますか?
適切なサポートがあれば改善できます。
実際に、4〜6歳のASD児に月2回程度の感覚統合療法を3〜6か月実施した研究では、コミュニケーション能力や日常生活スキルに有意な改善が見られました。
ただし、「完全に治す」という考え方よりも、子どもが快適に人と関われるスキルを身につけることを目指しましょう。
距離感は経験を重ねることで少しずつ身についていきます。
人との関わりを求める気持ちがあることは、むしろ良いことです。焦らず、子どものペースで取り組んでいきましょう。
距離感が近い子どもの特徴と発達障害との関係まとめ
距離感が近い子どもの背景には、ボディイメージの未発達、空間認識の苦手さ、相手の反応を読み取りにくさなどがあります。発達障害との関連も指摘されていますが、診断の有無に関わらず、適切なサポートで改善が期待できます。
大切なのは、「わざとやっている」と叱るのではなく、子どもが理解できる形で伝えることです。子どものペースを尊重しながら、焦らず取り組んでいきましょう。
数字や目印を使った具体的なルールで、視覚的・体験的に距離感を教えていきましょう。
ただ、どうしても改善しないときは、専門機関に相談してください。
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