モザイク型のダウン症に対する不安を解消するために

「ダウン症だと言われたけれど、周りの子どもとあまり変わらない気がする」「モザイク型という診断を受けたけれど、モザイク型のダウン症とは何?これからどんな成長をたどるのか不安」「顔の特徴がはっきりしていないから、本当にダウン症なのか実感がわかない」
子どもの健やかな成長を願う保護者にとって、染色体の変化という診断は、これからの生活に対する漠然とした不安を抱かせるものかもしれません。特に「モザイク型のダウン症」は、一般的なダウン症のイメージとは異なる部分が多く、情報の少なさに戸惑う方も少なくありません。
ダウン症といえば、特定の顔立ちや、心臓などの合併症を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、モザイク型の場合は、そうした特徴が非常に緩やかで、一見しただけでは気づかないこともよくあります。
この記事では、モザイク型のダウン症とはどのような特性なのか、標準的なタイプとの違いや診断の方法、そして子どもが自分らしく成長していくためのサポート方法について、専門的な視点から解説します。
モザイク型のダウン症とはどのような障害か

ダウン症(21トリソミー)は、通常は2本であるはずの21番染色体が3本になることで生じる特性です。そのなかでもモザイク型と呼ばれるタイプは、細胞の成り立ちに独特の背景があります。
21番染色体の異常が一部の細胞のみにある
私たちの身体は、何十兆個もの細胞が集まってできています。通常のダウン症(標準型)の場合、すべての細胞において21番染色体が3本になっています。
一方でモザイク型のダウン症とは、その名の通り、身体の中に「染色体が3本の細胞」と「染色体が2本の細胞」が混ざり合っている状態を指します。タイルを組み合わせて作るモザイク画のように、異なる性質を持つ細胞が共存しているため、このように呼ばれています。
この現象は、受精卵が細胞分裂を繰り返す過程で、何らかの理由により一部の細胞だけに染色体の変化が起きることで発生します。身体のどの部分に、どのくらいの割合で変化した細胞が存在するかは、ひとりひとり全く異なります。
全身の細胞が変化する標準型ダウン症との違い
標準型とモザイク型の決定的な違いは、身体への影響の濃淡にあります。
例えるならば、標準型は「全体が薄いピンク色に染まった画用紙」のような状態です。すべての細胞に染色体の変化があるため、ダウン症特有の身体的特徴や合併症が比較的はっきりと現れやすいといわれています。
対してモザイク型のダウン症は「白い画用紙の上に、小さなピンク色の点々が散らばっている状態」をイメージすると分かりやすいかもしれません。正常な細胞が一定の割合で存在しているため、標準型と比べると、知的な発達の遅れが緩やかであったり、身体的な特徴が目立たなかったりする傾向があります。
ただし、注意が必要なのは、この混ざり具合に決まったルールはないということです。脳の細胞に変化が多い子もいれば、内臓の細胞に変化が集中する子もいます。そのため、症状の出方には非常に大きな幅があると言えます。
発生頻度はダウン症全体の数パーセントと稀
ダウン症は、およそ700人から1,000人にひとりの割合で生まれるといわれていますが、そのなかでもモザイク型は非常に珍しいケースです。
統計によると、ダウン症全体のうち標準型が約90パーセントから95パーセントを占めるのに対し、モザイク型はわずか1パーセントから3パーセント程度といわれています。
このように発生頻度が低いため、医療機関や療育の現場でも、モザイク型の子どもに出会う機会はそれほど多くありません。保護者の方が「周りに同じような状況の人がいなくて相談できない」と感じてしまうのは、この希少さが理由のひとつでもあります。
顔の特徴が薄く気づかないモザイク型のダウン症

モザイク型のダウン症の子どもを持つ保護者の方からよく伺うのが「生まれたときには全く気づかなかった」という声です。
つり目や低い鼻などの顔の特徴が目立たない
ダウン症に共通してみられる顔立ちの特徴として、目が少しつり上がっている、鼻の付け根が低い、といった点が挙げられます。
モザイク型の場合、これらの特徴が非常に薄かったり、あるいは全く見られなかったりすることがあります。「少し目がぱっちりしているかな」というように、個性の範囲内として受け止められることがほとんどです。そのため、キレイな顔立ちの赤ちゃんとして、周囲に気づかれることなく成長していくケースも少なくありません。
身体的な特徴が少なく成長するまで気づかない
顔立ち以外にも、ダウン症には身体的な特徴がいくつかあります。例えば、手のひらを横切る一本の線や、足の指の間の広さなどです。
モザイク型では、こうした末端の特徴も現れにくい傾向があります。また、標準型の子どもによく見られる「身体の柔らかさ(筋緊張の低下)」も目立たないことが多いため、首のすわりや寝返りといった運動発達も、標準的なスピードに近いことがあります。
このような理由から、乳幼児健診でも見過ごされやすく、気づかないこともあります。言葉の遅れや集団生活での違和感が出てくる3歳、4歳、あるいは小学生になってから初めて染色体の検査を勧められることもあります。
合併症や症状の重さには大きな個人差がある
ダウン症には、心疾患や消化器系の疾患などのリスクが伴うことがあります。モザイク型においてもこれらのリスクは存在しますが、一般的には標準型よりも頻度が低く、程度も軽い傾向があるといわれています。
しかし、ここでも「個人差」が大きなキーワードとなります。モザイクの割合が、検査した血液中ではわずかであっても、他の組織では高い割合である可能性も否定できないからです。
そのため、見た目がどれほど標準型と異なっていても、定期的な医学的チェックは欠かせません。逆に言えば、適切な医療的ケアと本人のペースに合わせたサポートがあれば、多くの困難を乗り越えていける力を持っているのも、モザイク型の子どもの特徴です。
モザイク型のダウン症に対する診断と検査の流れ

もしかして、という不安を抱えながら過ごす時間は、保護者の方にとって非常に落ち着かないものです。診断は、客観的な数値や細胞の状態を確認するプロセスを経て行われます。
血液検査による染色体検査で確定診断を行う
モザイク型のダウン症の疑いがあるとき、最も確実な診断方法は染色体検査です。子どもの血液を採取し、細胞の中にある染色体の数や形を顕微鏡で直接確認します。
観察したすべての細胞の21番染色体が3本であれば「標準型」と診断されます。一方で、21番染色体が3本の細胞と2本の細胞が混在していることが確認された場合に「モザイク型」という診断が下されます。
ただし、血液検査で見つかるモザイクの割合は、あくまで血液中の細胞における割合です。脳などの他の組織でどのような割合になっているかは、この検査だけでは正確に知ることはできません。そのため、検査結果の数値と実際の症状の重さが必ずしも一致しないという難しさがあります。
出生前診断でモザイク型が見つかる可能性
近年では、お腹の中にいるときに行う出生前診断によって、モザイク型のダウン症の可能性が示唆されるケースも増えています。
非侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)や羊水検査などがその代表です。特に羊水検査では、胎児の細胞を直接調べるため、生まれる前にモザイクの状態が判明することもあります。
しかし、出生前診断でモザイク型と言われたとしても、その子が将来どのような発達をたどるのかを正確に予測することは極めて困難です。医師との丁寧な対話を通じて、一つひとつの事実を冷静に受け止めていくことが、家族にとって最初の大切なステップとなります。
大人になってから診断されるケースもある
モザイク型のダウン症の最大の特徴は、その特性が非常に緩やかである場合があるという点です。
赤ちゃんのころに身体的な特徴が目立たず、知的な発達も標準的な範囲に近い場合、専門医であっても見過ごしてしまうことがあります。その結果、子どもの時期を「少し不器用な子」として過ごし、社会人になってから、あるいは自身の不妊治療などをきっかけに、初めて診断される方もいらっしゃいます。
大人になってからの診断は、ご本人にとって大きな衝撃となる一方で「これまでの生きづらさの理由がようやく分かった」という安堵感につながることもあります。どのタイミングで診断がついたとしても、大切なのはその特性を個性の一部として捉え、必要なサポートを組み立てていくことです。
発達の特徴に合わせたモザイク型のダウン症への支援

診断がついたあと、保護者の方が真っ先に考えるのは「この子に何をしてあげられるか」ということではないでしょうか。
知的な発達や運動能力の遅れは個人差が大きい
モザイク型のダウン症の発達において、最も強調すべきは個人差の大きさです。
一般的に、知能指数(IQ)は標準型ダウン症の子どもたちよりも高い傾向にあるといわれていますが、これもひとりひとり異なります。ある分野では非常に高い能力を発揮する一方で、別の分野では強い苦手さを抱えることもあります。
運動面においても同様です。筋緊張が少し弱いことで、走るのがゆっくりだったり、手先が不器用だったりすることはありますが、これも経験によって大きく改善できる可能性があります。周りの子どもと比較して一喜一憂するのではなく、目の前の子どもが昨日と比べて何ができるようになったかという変化を見守る視点が、保護者の方の心を支える鍵となります。
早期から療育を行い発達をサポートする重要性
モザイク型のダウン症と診断された、あるいはその疑いがある場合、できるだけ早い段階で療育(発達支援)を取り入れることをおすすめします。早期療育の目的は、単に遅れを取り戻すことではありません。子どもの中にある得意をいち早く見つけ、本人が自信を持って生きていける土台を作ることです。
モザイク型の子どもたちは、理解力や記憶力が高い傾向にあります。しかし、一方で「やりたいことは分かっているのに、身体がうまく動かない」といった情報の統合の難しさを抱えていることも少なくありません。
そこで重要になるのが感覚統合という視点です。感覚統合とは、脳に入ってくるさまざまな感覚を整理し、まとめる働きのことです。療育の中では、トランポリンやブランコなどの遊びを通じて、楽しみながらこれらの感覚を刺激し、身体をスムーズに動かす練習を行います。
また、モザイク型の子どもは周囲の状況をよく理解していることが多いからこそ、小さなできないが積み重なると、人一倍傷つき、自信を失いやすい繊細な面も持っています。スモールステップで成功体験を積み重ねることが、何よりも大切です。
子どもの特性に合わせた環境で可能性を伸ばす
小学校への入学など、集団生活の場が広がるにつれて、子どもの特性に合った環境選びが重要になります。モザイク型の子どもは、通常学級と特別支援学級のどちらを選択すべきか悩まれることも多いでしょう。
大切なのは「本人が最も安心して自分を発揮できる場所はどこか」という視点です。例えば、通常学級で過ごす場合は、指示を短く具体的に伝える、視覚的なスケジュール表を活用する、といった配慮が必要になることがあります。
こうしたサポートをより効果的にするためには、子ども自身の「メタ認知能力」を育てることも有効です。メタ認知能力とは、自分自身の状態を客観的に把握する力のことです。「自分は今、これが難しいと感じている」と気づき、対処法を身につけることは、将来の自立に向けた大きな武器となります。
メタ認知能力については、次の記事に詳しく書いています。
【メタ認知能力とは?子どもの学習と対人関係を伸ばす鍛え方】
また、社会性を育む「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」も非常に効果的です。場面に応じた適切なコミュニケーション方法を具体的に学ぶことで、お友達とのトラブルを防ぎ、豊かな人間関係を築くことができるようになります。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)については、次の記事に詳しく書いています。
【SSTトレーニングとは?小学生の友達トラブルを解決する具体策】
【SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは?効果的な対象者や手法を解説】
モザイク型のダウン症についてのまとめ
モザイク型のダウン症は、標準型と比べて特性が目立ちにくい分、適切な支援に繋がるのが遅れたり、周囲からの理解が得にくかったりすることがあります。しかし、早くからその子の特性を正しく理解し、適切な環境を整えてあげることで、子どもは私たちが想像する以上に、のびのびと成長していきます。
「顔つきが少し違うかもしれない」「発達がゆっくりかもしれない」 そうした事実に目を向けることも大切ですが、それ以上に、目の前にいる一人ひとりの子どもとしての個性を愛し、寄り添い続けることが、何より子どもの栄養になります。
ステラ幼児教室では、モザイク型のダウン症を含む、さまざまな発達の特性を持つ子どもたちに合わせた、オーダーメイドの支援を行っています。専門的な知識を持ったスタッフが、一人ひとりの子どもの「できる」を一緒に見つけ、将来の可能性を広げるお手伝いをさせていただきます。












