「うちの子、なぜこんなに座っていられないんだろう」「どうして服のタグにこんなに嫌がるんだろう」
お子さんのこうした行動に、疑問を感じたことはありませんか?
実は、これらは「感覚統合」という脳の働きと関わっています。感覚統合とは、目や耳といった五感だけでなく、肌で感じる感覚や体のバランス感覚を脳がまとめて、ちょうどよく処理する仕組みのことです。
お子さんがどう感じているか理解できると、行動の理由が見えてきます。本記事では、この仕組みがどう働くか、家庭で試せる遊びや接し方、専門家に相談する方法まで、具体的に説明します。ぜひ、成長を見守るヒントにしてください。
子どもの成長に欠かせない感覚統合とは?

まずはじめに、感覚統合の基礎知識をご紹介します。
脳が複数の感覚情報を整理する働き
感覚統合とは、目や耳、肌で感じる感覚など複数の情報を脳がまとめて処理する働きです。
たとえば、教室で先生の話を聞きながらノートに書く場面を想像してください。このとき、脳は「耳で聞く」と「目で見る」と「手を動かす」という3つの感覚を同時に使っています。感覚統合がうまく働くと、この3つがしっかり連動して、初めてできる行動なのです。
感覚統合が上手に働くと、お子さんは遊びや勉強に集中しやすくなります。また、運動ができるようになったり、友だちとうまく付き合えたり、心が落ち着いたりと、成長の基盤が整っていきます。
7つの感覚が協力して働く仕組み

私たちの感覚は、目・耳・鼻・舌・肌の5つだけではありません。前庭覚(バランス感覚)と固有受容覚、この2つをさらに使っています。
前庭覚は、耳の奥にある器官が感知する感覚です。身体が傾いたり、揺れたり、回転したりするのを感じ取ります。立ったり、歩いたり、バランスを保つことができるのは、この感覚のおかげです。
一方の固有受容覚は、身体の位置を把握するための感覚です。手足がどこにあるか、どう動いているか、どのくらい力を入れるかを無意識に理解します。重い荷物を持つ、ジャンプするといった動きを通じて、自然に育まれます。
この7つの感覚が脳で力を合わせて働くと、お子さんは自分の身体の動きをちゃんと理解できます。友だちとぶつからずに遊べたり、教室で落ち着いて座っていられたり、やることに集中できたりするようになります。
成長の土台となる感覚統合理論の考え方
感覚統合理論は、1960年代にアメリカの作業療法士、A・ジーン・エアーズ博士が提唱しました。この理論によると、前庭覚・固有受容覚・触覚の3つが、子どもの成長の土台になるとしています。
特に大切なのは、2歳から7歳までの時期です。この時期に、いろいろな遊びや体験を通じて、感覚統合をしっかり育てることが大切だとわかっています。
感覚統合の発達は、積み木を積むようなものです。基礎となる感覚がしっかりしていると、その上に姿勢や目の動き、自分の身体がどこにあるかという感覚が築かれます。その後、言葉や勉強の力が育まれるとしています。
参考:厚生労働科学研究成果データベース「感覚統合理論の紹介」
感覚統合がうまくいかないとどうなる?

感覚統合がうまく機能していない場合、お子さんの日常生活や学習にさまざまな影響が生じます。「困った行動」の背景には、バランス感覚である前庭覚、筋肉・関節の運動に関する感覚の発達不足が隠れているかもしれません。詳しくご説明します。
椅子にじっと座っていられない
授業中や食事中に椅子をガタガタ揺らしたり、立ち歩いたりするお子さんがいます。これは、バランス感覚や身体の位置を感じる感覚が、まだ発達途上だからかもしれません。
こうしたお子さんの脳は、より強い刺激を求めています。椅子を揺らしたり立ち歩いたりするのは、その強い刺激が「心地よい」と感じているからなのです。
そんなときは、トランポリンやハンモック、ブランコなど、大きく揺れる遊びが役に立ちます。体に刺激を与えることで、脳が満足し、徐々に落ち着いて座れるようになるお子さんも多いのです。
音や光への反応が極端
特定の音や光に対して、お子さんが敏感に反応することもあれば、逆に気づきにくいこともあります。どちらも感覚統合の問題に関連しているかもしれません。
敏感に反応する場合、日常の音が大きく聞こえて不快に感じられたり、太陽や蛍光灯が眩しく感じられたりします。サイレンや運動会のピストル音、ドライヤーの音など、耳が痛くなるほど聞こえることもあります。
一方、気づきにくい場合は、周りの音に気づかず、呼びかけに反応が遅れたりします。目の前で何か変わっても、なかなか気づけないのが特徴です。
着替えやボタンが苦手
ボタンがうまくとめられない、服の前後を間違える、着替えの途中で気が散るといった困難があります。これは手先の不器用さや空間認知の課題、感覚過敏など、複数の要因が関わっている可能性が高いです。
特に感覚過敏があるお子さんの場合、服のタグや縫い目が肌に当たるのを嫌ったり、特定の素材に強い不快感を示したりすることがあります。
感覚の過敏さと鈍感さ
感覚統合の問題は、「敏感すぎる場合」と「鈍感すぎる場合」という極端な形で現れることがあります。
触覚で考えてみましょう。敏感な場合は、手が汚れることを嫌がったり、服の素材やタグが気になったりします。一方、鈍感な場合は、スキンシップを強く求めたり、寒暑を感じにくかったりします。
前庭覚も同じです。敏感な場合は、乗り物酔いしやすく、高いところを怖がります。一方、鈍感だと姿勢を保つのが苦手で、ぐるぐる回ったり、揺れを好んだりします。
大切なのは、これらの感覚の違いは単なる性格や努力不足ではなく「脳の情報処理の特性に起因するもの」だということです。だからこそ、お子さんへの理解と適切な支援が大切になります。
家庭でできる感覚統合を促す10の遊び

お子さんの感覚統合は、毎日の遊びの中で自然に促せます。特別な道具もいらず、親子で一緒に遊ぶだけで十分です。ここでは、今日から試してもらいたい10の遊びをご紹介します。
粘土遊び
粘土遊びは触覚と固有受容覚を同時に刺激できる遊びです。粘土を握ったり丸めたりする動作は、手指の細かい動きを必要とし、脳への刺激となって集中力を高めます。
この遊びでは、粘土を握るときに「ギュッと力を入れる感覚」と「ゆっくり形を整える感覚」が同時に働くため、脳が身体をどう動かすかを学びます。さらに、完成した作品を眺めるときに視覚と達成感も加わり、多角的な発達を促すのが特徴です。
砂遊びとスライム
砂の「ジャリジャリ」した感触やスライムの「プニプニ」とした感覚が、感覚機能の発達を促します。手作りスライムなら、まぜる作業自体が刺激になります。色を付ければ視覚的な刺激も加わるでしょう。
新聞紙ちぎり
新聞紙を思いきりビリビリと破くことで得られる刺激は、手や指に触覚的な刺激を与え、身体の感覚統合を促します。ちぎった新聞紙を上から落とすとヒラヒラと舞い、それを集めて丸めてボールにしたり投げたりして遊びましょう。
ブランコ
バランス感覚を刺激するシンプルな遊びの一つです。前後に揺れる動きの中でバランスを取る機能が刺激され、姿勢を保つ、体の位置を把握するなど、日常生活に欠かせない能力が育まれます。最初は親御さんが押し、徐々に自分で足を動かすよう促すといいでしょう。
トランポリン
トランポリンは、前庭感覚と固有受容覚を同時に刺激できる効果的な遊具です。身体全体を使うことで関節や筋肉を刺激し、動的なバランス感覚を養います。
小型のトランポリンなら自宅で楽しめます。
布団ブランコ
シーツや毛布を使って全身を包まれる感覚、揺れる感覚を同時に体験できる遊びです。自宅で気軽に試せるので、雨の日などに楽しんでみてください。
鉄棒
鉄棒は、固有受容覚と前庭感覚を強く刺激する効果的な運動遊びです。鉄棒にぶら下がってゆらゆら揺れたり、手と足で鉄棒にしがみついたりすることで、感覚統合の発達を促します。
壁押し
両手で壁をしっかり押す動作を10秒程度繰り返すことで、固有受容覚を刺激します。朝起きたあと、帰宅後、寝る前など、日常のいろいろな場面に組み込める遊びです。
ボール遊び
ボール遊びは、多様な感覚を刺激する最適な活動です。投げる・捕る・転がすなどの動作は、感覚を総合的に活性化するほか、目と手の協調動作を鍛えます。
音楽で体を動かす
音楽のリズムに合わせて身体を動かすことで、聴覚・視覚・運動感覚が同時に刺激されます。得意な曲なら、お子さんも進んで参加してくれるでしょう。
専門支援による感覚統合療法の受け方
感覚統合療法とは、作業療法士によって行われる専門的な支援です。お子さんの感覚や動きを科学的に評価し、個別に合わせた訓練を行います。
ご家庭での取り組みも大切ですが、専門家の支援を受けることで、より効果的な改善が期待できるでしょう。
作業療法士が行う支援内容
作業療法士は、お子さんの場合、感覚と発達を評価し、遊びを通じた個別プログラムを立て、訓練を行います。
まずは親御さんとお子さんに困りごとを詳しく聞き取り、遊びの様子や専門的な検査から課題を明らかにします。たとえば、椅子に座っていられないお子さんの場合、根本には「体の位置を感じる力が弱い」という課題が隠れているかもしれません。
課題が明らかになると、お子さんに合わせた個別プログラムを設計します。例えば、体の位置を感じる力が弱いお子さんには、ブランコやトンネルくぐりといった活動を取り入れます。これらは「遊び」に見えますが、実は医学的・科学的に裏付けされている訓練です。
週に1回から2回程度、継続的に活動を重ねることで、お子さんの脳が感覚情報をうまく処理できるようになっていきます。その結果、落ち着いて座ったり、友だちと遊んだり、勉強に集中したりできるようになるお子さんも多いのです。
その後、お子さんの変化を観察し、プログラムを柔軟に調整します。同時に、家庭で実践できる遊びや関わり方を親御さんにアドバイスし、施設での支援と家庭での取り組みが一体となるようサポートします。
専門支援を受けられる場所
感覚統合療法を受けられる場所は、大きくわけて医療機関と療育機関の2つがあります。
医療機関では、保険診療として作業療法士による専門的な訓練を受けられます。一方、療育機関では受給者証による公的支援を利用できますが、作業療法士が配置されている施設はごく限られています。
ステラ幼児教室をはじめとする療育機関では、お子さんの特性や課題に合わせ、感覚統合の視点を取り入れた遊びや活動を行っています。ご家族の希望やお子さんの様子に合わせて、医療機関と療育機関のどちらが適しているか、または両方を組み合わせるかを検討しましょう。
感覚統合を促す遊びを今日から始めましょう

感覚統合は、目・耳・鼻・舌・肌の五感に加え、バランス感覚と身体の位置を感じる感覚が協力して働く、脳の大切な働きです。これがうまく機能していないと、椅子に座っていられない、音や光に敏感すぎる、着替えが苦手といったサインが現れることがあります。
しかし、ご家庭での遊びを通じて感覚統合を促すことは十分に可能です。粘土遊びや砂遊び、ブランコやトランポリン、音楽に合わせて体を動かすといった活動を、お子さんと一緒に楽しみながら取り組んでみてください。
大切なのは、お子さんの感覚の特性を理解し、安心できる環境の中で成長を見守ることです。適切な理解と支援があれば、お子さんは自分らしく成長していけるでしょう。
ステラ幼児教室では、感覚統合の課題があるお子さんも、安心して学べる環境を整えています。お子さんの困りごとをしっかり受け止め、個別の状況に合わせたサポートを行っていますので、どうぞお気軽にご相談ください。
ステラ幼児教室では随時見学受付中
名古屋市、大阪市に展開している児童発達支援事業所、ステラ幼児教室では随時見学を行っています。
一人ひとりに合わせたオーダーメイドの授業でお子さまの成長をサポートします。












