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DCDとは?運動が苦手な子どもの診断基準と支援方法を解説

2025.11.22
  • 発達障害
  • ASD(自閉症スペクトラム)
  • ADHD(注意欠如多動性障害)
  • 支援方法・家庭での過ごし方

不器用さや運動の苦手さはDCDかもしれません

「うちの子、ほかの子と比べて運動が苦手かも」「よく転ぶし、キャッチボールもうまくできない」「文字を書くのがとても遅いし、不器用さが目立つ」

子どもの不器用さや運動の苦手さについて、このように心配している保護者の方は少なくありません。集団生活が始まると、体育の授業や工作の時間などで、その苦手さが目立ってしまうこともあります。

単なる運動音痴や練習不足として片付けられがちなこれらの困難さの背景には、もしかするとDCD(発達性協調運動障害)という特性が隠れているかもしれません。

この記事では、DCDとは何か、その具体的な特徴や診断基準、ADHDやASDといった他の発達障害との違いについて解説します。また、大人の場合のDCDや、家庭や療育でできる支援方法についても詳しく紹介します。

DCDとは

DCDとは、Developmental Coordination Disorderの略で、日本語では発達性協調運動障害と呼ばれます。これは、年齢や知的な発達に比べて、協調運動(身体の複数の部分を同時に、または順序立ててスムーズに動かすこと)が著しく困難な状態を指します。

本人の努力、やる気の問題ではなく、生まれつきの脳の特性によるものです。脳からのこのように動きなさいという指令を、身体がうまく実行できない、あるいは動きを計画することが苦手な状態とイメージすると分かりやすいかもしれません。動きを計画することの困難さとは、例えばボールを投げるという動作の際、どのタイミングで腕を振り、いつ手を離すかといった一連の動きを頭の中で順序立てて計画し、実行に移すことが難しい状態を指します。

DCDの主な特徴

DCDの特徴は、全身を使った大きな動き(粗大運動)と、手先を使った細かい動き(微細運動)の両方に現れます。

粗大運動の苦手さ

・バランスが悪く、何もないところでもつまずいたり転んだりする

・身体を物にぶつけやすい(空間認知の弱さ)

・走る、跳ぶ、階段の上り下りといった動作がぎこちない

・ボールを投げたり、捕ったり、蹴ったりするのが極端に苦手

・自転車や三輪車になかなか乗れるようにならない

微細運動の苦手さ

・鉛筆の持ち方がぎこちなく、筆圧が強すぎるか弱すぎる

・文字や絵が枠からはみ出したり、形が崩れたりする(書字障害)

・はさみや定規、コンパスなどの道具をうまく使えない

・箸やスプーン、フォークを使うのが苦手で、食べこぼしが多い

・ボタンのかけ外し、靴ひもを結ぶといった着替えの動作が遅い

日常生活や学校生活での困りごと

これらの運動面の苦手さは、日常生活や学校生活のさまざまな場面で困りごととして現れます。

・学校生活
体育の授業を嫌がる、リコーダーや鍵盤ハーモニカの演奏が難しい、ノートの板書が間に合わない、図工の作品がうまく作れない。

・日常生活
着替えや食事に時間がかかる、コップを倒して水をこぼしやすい、おもちゃをすぐに壊してしまう(力加減の難しさ)。

・心理面・社会面
運動や作業の失敗体験が続くことで、「自分は何をやってもダメだ」と自己肯定感が下がってしまいます。また、体育の授業でチーム分けの際に最後に選ばれたり、遊びでどんくさいとからかわれたりすることで、集団活動への参加を避けるようになり、社会的な孤立や不安を感じやすくなることもあります。

DCDの原因は努力不足ではない

DCDは、本人の怠慢や練習不足、あるいは親の育て方が原因で起こるものではありません。 脳の神経系の機能的な問題、特に運動の計画や実行に関わる部分の連携がうまくいっていないことが原因と考えられています。

練習すればいつかできるようになると無理に反復練習をさせても、本人の苦痛が増すだけで、うまくいかないことが多いのです。大切なのは、なぜできないのかという背景を理解し、その子に合ったサポートや戦略を見つけることです。

DCDと発達障害の違い

DCDは、ADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)と並んで語られることが多いですが、その関係性はどうなっているのでしょうか。

DCDは発達障害に含まれるか

DCDは、国際的な診断基準であるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)において、「神経発達症群(いわゆる発達障害)」の中の「運動症群」に分類されています。つまり、DCDは発達障害の一種です。

他の発達障害と併発する場合

DCDは、ADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)と併発しやすい(合併しやすい)ことが知られています。DCDの子どもの約半数がADHDを、またASDの子どもの多くもDCDの症状を併発しているという報告もあります。これは、注意の制御、社会的な認識、運動の制御といった機能が、脳の重なり合う領域で処理されているためと考えられています。

・DCD単独の場合
主な困りごとは運動面(不器用さ)に限定されます。

・ADHDと併発した場合
不器用さに加え、不注意(集中できない)や多動性(じっとしていられない)といった特性が重なり、より生活での困難さが大きくなることがあります。

・ASDと併発した場合
不器用さに加え、対人関係の難しさや、感覚過敏、強いこだわりといったASDの特性が重なります。

DCDの診断は、知的障害や脳性麻痺、視覚障害など、他の病気で運動の困難さが説明できる場合はつきません。しかし、ADHDやASDと併発している場合、その子の運動の苦手さがADHDの不注意さだけでは説明できないほど著しく不器用であれば、DCDの診断も同時につくことがあります。

DCDの診断基準

DCDの診断は、専門の医師(小児科医、児童精神科医、小児神経科医など)や、作業療法士などの専門家によって行われます。

DCDの診断基準4つのポイント

DSM-5におけるDCDの診断基準は、主に以下の4つのポイントに基づいています。

1.運動技能の困難
年齢に対して期待される協調運動(ボール投げ、書字、はさみなど)が、著しく低い。

2.日常生活への影響
運動の苦手さが、日常生活(着替え、食事)、学業(ノートをとる)、遊び(鬼ごっこ)などを著しく妨げている。

3.早期からの発症
症状は、発達の早い段階(小児期)から見られる。

4.他の疾患の除外
その運動の困難さが、知的障害、視力障害、または脳性麻痺などの他の神経疾患ではうまく説明できない。

診断はどこで受けられるか

子どものDCDが疑われる場合、まずはかかりつけの小児科医に相談するか、地域の保健センターや子育て支援センター、発達障害者支援センターに相談するのが第一歩です。そこから、必要に応じて専門の医療機関(小児科、児童精神科、リハビリテーション科など)を紹介してもらうことができます。

診断までの流れ

診断は、保護者や先生からの聞き取り(子どもの日常生活での様子、いつから困難さがあるかなど)が非常に重要になります。その上で、標準化された運動能力検査(M-ABC2など)を用いて、子どもの運動能力を客観的に評価します。また、他の病気(脳性麻痺、筋ジストロフィーなど)が隠れていないかを調べるために、血液検査やMRIなどの医学的検査が行われる場合もあります。

大人のDCD

DCDは子どもの問題と思われがちですが、その特性は大人になっても続くことが多いです。

DCDを持つ大人の特徴

子どものころの不器用さは、大人になると別の形の困難さとして現れます。運動能力そのものが少しずつ改善することはあっても、新しい運動技能(例えば、車の運転や新しいスポーツ)を学ぶ際に、他の人よりも著しく時間がかかるといった形で特性が残ります。

仕事や生活での困りごと

・仕事
パソコンのタイピングが遅い、手書きの書類が汚くなる、工具や精密機械の操作が苦手、作業の段取りが悪い。

・日常生活
自動車の運転が極端に苦手(車庫入れ、車線変更など)、料理でよく物をこぼす・包丁で手を切りそうになる、家事が非効率的で時間がかかる。

・趣味・社会生活
スポーツやダンス、カラオケ(手拍子)などを無意識に避け、社会参加の機会を失ってしまうこともあります。

大人になってからできることや支援

大人になってからDCDに気づいた場合、まずは診断を受けて自分の特性を理解することが大切です。その上で、専門家によるサポートを受けることができます。大人への支援は、子どものように運動技能を治すことよりも、困難さをカバーするための代替戦略を見つけることが中心になります。例えば、手書きが苦手ならキーボード入力を徹底する、料理が苦手ならカット野菜や調理器具を活用する、といった工夫です。

家庭や療育での支援方法

DCDの子どもへの支援は、早期に始めるほど効果的です。重要なのは、本人の努力不足などと責めるのではなく、具体的な工夫をすることです。

家庭でできる支援方法

・環境を整える
着替えやすいように、ボタンではなくマジックテープやゴムウエストの服を選ぶ。滑りにくい食器や、持ちやすい形の箸・スプーンを選ぶ。

・活動を細分化する
例えば靴ひもを結ぶという動作を、穴に通す、交差する、片方で輪を作る、のように細かく分け、写真やイラストで見せながらひとつずつゆっくり教えます。

・時間的プレッシャーを減らす
朝の忙しい時間に着替えの練習をさせてもうまくいきません。休日の時間があるときに、遊び感覚でボタンかけの練習をするなど、プレッシャーのない環境を作ることが大切です。

・スモールステップで取り組む
ゴールを子どもが少し頑張るとできる範囲に設定し、子ども自身が「できた」達成感を感じることで、自信や自己肯定感を育てます。

・適度な運動
勝ち負けや協調性が求められるチームスポーツよりも、スイミングやサイクリング、武道(型のあるもの)など、自分のペースで取り組める運動が適している場合があります。

療育や専門機関での支援

DCDの専門的な支援は、作業療法士や理学療法士が行います。作業療法士や理学療法士は、その子がなぜその動作でつまずいているのか(姿勢が不安定だから?力加減が苦手だから?)、その原因を分析するプロフェッショナルです。その上で、トランポリンやバランスボールなどを使った感覚統合療法のアプローチや、個別の課題(書字、箸の操作など)に焦点を当てた練習(課題指向型アプローチ)などを、子どもの状態に合わせて組み合わせて行います。

学校での環境調整のポイント

学校生活での困難さを減らすために、合理的な配慮を求めることも大切です。

・体育の授業では、難しすぎる課題のレベルを調整してもらう、見学ではなく補助的な役割(スコアつけなど)で参加させてもらう。

・書字の困難さに対して、ノートの板書量を減らしてもらう、タブレット端末(キーボード)の使用を許可してもらう、テストの解答時間を延長してもらう。

困ったら専門機関への相談を

家庭での工夫だけでは限界がある、あるいは子どもの自己肯定感が下がり続けている、と感じたら、専門機関への相談が不可欠です。専門家は、なぜその子が運動が苦手なのか、その背景にある要因(バランスが悪いのか、力加減が苦手なのか、視覚で捉えるのが苦手なのか)を分析してくれます。

ステラ幼児教室では、個別療育を通して、集団の中では見落とされがちな一人ひとりの小さなつまずきに気づき、その子に合ったオーダーメイドの支援計画を立てています。DCDの特性だけでなく、併発しやすいADHDやASDの特性も考慮しながら、子どもが安心して「できた」を積み重ねられる環境を提供します。

DCDの特徴と支援方法のまとめ

DCD(発達性協調運動障害)とは、本人の怠慢や努力不足ではなく、脳の特性による運動の困難さです。その特徴は、粗大運動(転びやすいなど)と微細運動(不器用)の両方に現れ、日常生活や学校生活に大きな影響を与えます。DCDの診断は専門家によって行われ、診断基準に基づいて判断されます。また、ADHDやASDと併発することも多いのが特徴です。

運動の苦手さは、体育や図工だけでなく、「文字を書く(書字)」といった学習の土台にも直結します。教育現場や家庭で早期に「この子の不器用さは、もしかしたらDCDかもしれない」と気づき、適切なサポートにつなげることが、その後の学習意欲や自己肯定感を守る上で非常に重要です。

大切なのは、DCDを治すことではなく、本人が自分の特性を理解し、困難さをカバーする工夫や支援(作業療法、環境調整)によって、自己肯定感を失わずに成長していくことです。 家庭や学校での工夫に加え、専門機関と連携して、その子に合ったサポートを見つけていきましょう。

ステラ幼児教室では、個別療育を通して、集団の中では見落とされがちな一人ひとりの小さなつまずきに気づき、その子に合ったオーダーメイドの支援計画を立てています。DCDの特性だけでなく、併発しやすいADHDやASDの特性も考慮しながら、子どもが安心して「できた」を積み重ねられる環境を提供します。

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