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カサンドラ症候群とは何?由来と職場や家庭で起こる問題を解説

2025.12.18
  • 発達障害
  • ASD(自閉症スペクトラム)
  • ADHD(注意欠如多動性障害)
  • 支援方法・家庭での過ごし方

カサンドラ症候群とは何かその苦しみの正体

夫と会話をしていても、どこか噛み合わない感覚がある。 一生懸命に気持ちを伝えても、暖簾に腕押しで、何の反応も返ってこないような虚しさを感じる。 子育ての悩みを相談しても、トンチンカンな返答が返ってきたり、そもそも興味を示してもらえなかったりする。

家庭の中でこのような孤独を感じ、心身ともに疲弊してしまってはいないでしょうか。 まるで自分が透明人間になったかのように、家庭内で存在を無視されているような感覚。 周囲に相談しても、夫は真面目に働いているし、ギャンブルもしない。暴力もない。だからこそ、贅沢な悩みだと受け取られてしまい、誰にも辛さを分かってもらえない。

その苦しみには、カサンドラ症候群という名前がついているかもしれません。 これは、パートナーとの情緒的な交流が持てないことによって生じる、深刻な心身の不調のことです。あなたが悪いわけでも、努力が足りないわけでもありません。 本来、家庭は心の安全基地であるはずですが、そこで情緒的な栄養が得られない状態が続けば、心は枯渇してしまいます。

この記事では、カサンドラ症候群とは一体何なのか、その由来や原因、そして職場や家庭で起こりうる具体的な問題と、回復に向けたヒントについてわかりやすく解説します。

名前の由来と定義をわかりやすく解説

カサンドラ症候群という言葉は、医学的な診断名ではありませんが、近年、心理学や福祉の現場で広く知られるようになった概念です。まずは、その言葉の成り立ちと定義について解説します。

ギリシャ神話にみるカサンドラ症候群の由来

カサンドラという言葉は、ギリシャ神話に登場するトロイの王女カサンドラに由来します。 彼女は、太陽神アポロンから未来を予知する能力を授かりました。しかし、アポロンの愛を拒絶したために呪いをかけられ、誰からもその予言を信じてもらえなくなってしまったのです。

カサンドラは、トロイの木馬による国の滅亡という真実の予知を叫び続けましたが、周囲の人々は彼女を狂人扱いし、誰も耳を貸しませんでした。 真実を知っているのに、誰にも信じてもらえない。このカサンドラの苦悩と孤独が、家庭内でパートナーとの関係に苦しんでいるのに、周囲からは問題のない夫婦に見られ、辛さを理解してもらえない妻たちの状況と重なることから、カサンドラ症候群と名付けられました。 妻が訴える苦しみは、周囲から見れば夫の良い外面によって打ち消されてしまい、妻自身の問題として片付けられてしまうのです。

カサンドラ症候群をわかりやすく定義すると

カサンドラ症候群とは、アスペルガー症候群(現在のASD:自閉スペクトラム症)などの特性を持つパートナーや家族との間に、情緒的な相互関係を築けないことが原因で、他方のパートナーに生じる身体的・精神的な不調の総称です。

ポイントは、情緒的な交流の欠如です。 日常的な業務連絡や、事実の伝達はできるかもしれません。しかし、悲しい、嬉しい、つらいといった感情を共有し、共感し合うことが極端に難しいのです。 自分が投げかけたボール(感情)が、決して返ってこない壁打ちのようなコミュニケーションが何年も続くことで、妻は自信を喪失し、自分という存在が無視されているような感覚に陥っていきます。 これは関係性の障害とも言え、どちらか一方が悪いのではなく、二人の間のコミュニケーションのOSが異なっているために起こる摩擦と疲弊です。

原因となるADHDやASDとの深い関係

カサンドラ症候群の背景には、パートナーの発達障害(神経発達症)の特性が関係していることが多いとされています。特にASD(自閉スペクトラム症)との関連が深いですが、ADHD(注意欠如多動症)の特性も影響することがあります。

パートナーのASD特性によるコミュニケーション不全

ASDの特性を持つパートナーは、悪気なく相手を傷つけたり、孤独にさせたりしてしまうことがあります。特に、知的な遅れがない場合、外見や社会的な会話からは障害特性が見えにくく、家庭内でのみ問題が顕在化することが多いです。

共感性の欠如
妻が体調不良で寝込んでいても、大丈夫?と声をかけるのではなく、僕のご飯は?と聞いてしまう。相手の辛さを想像して寄り添うことが苦手なためです。これは認知的な共感はできても、情動的な共感が難しいという脳の特性によるものです。

・言葉通りに受け取る
少し手伝ってと言われても、少しが具体的に何分なのか分からず動けない。察することができないため、細かくわかりやすく指示されないと行動できません。

・独自のルールへのこだわり
家族の都合よりも自分のルーティンを最優先し、変更を極端に嫌がります。子どもの急な発熱で予定が変わると、心配するよりも予定が崩れたことにパニックを起こしたり、不機嫌になったりします。

これらは脳の機能による特性であり、愛情がないわけではありません。しかし、妻の側からすれば、何を言っても響かない、自分の気持ちを無視されていると感じられ、深い絶望感につながります。

ADHDの特性が関与するケース

ADHDの特性を持つパートナーの場合、ASDとはまた違った形で妻を疲弊させることがあります。

・衝動的な言動
思ったことをフィルターを通さずに口に出してしまい、妻を深く傷つけることがあります。後で謝ることもありますが、繰り返されるため妻は疲れてしまいます。

・不注意によるトラブル処理
約束を忘れる、物をなくす、衝動買いをするなど、夫が起こしたトラブルの尻拭いを常に妻がしなければならない状態です。妻は夫のパートナーではなく、まるで母親や管理人のような役割を強いられます。

・話を聞けない
妻が真剣に話していても、他のことに気が散ってしまい、話を聞いていない、覚えていないということが頻発します。

ASDとADHDの両方の特性を併せ持っているケースも少なくなく、その場合、妻の負担はさらに大きくなります。ASDのこだわりとADHDの衝動性が混ざり合い、対応の予測がつかないことがストレスを増幅させます。

家族間で起こるカサンドラ状態

カサンドラ症候群とは、夫婦間だけで起こるものではありません。子どもにも発達障害の特性がある場合、母親はさらに追い詰められます。

遺伝的な要因も含まれるため、夫と子どもの両方にASDやADHDの特性があるケースは珍しくありません。 夫とは会話が通じず、子どもは癇癪を起こしたり学校でトラブルを起こしたりする。家庭の中に、母親の気持ちを受け止めてくれる安全地帯がどこにもない状態です。 これをダブルケアのような状態と捉えることもでき、逃げ場のない母親は心身の限界を超えてしまいます。夫に子どもの相談をしても、夫自身も同じ特性を持っているため問題点が理解できず、お前の育て方が悪いとお門違いな批判をしてくることもあり、母親の孤立感は深まるばかりです。

心身に現れる症状と職場での困りごと

カサンドラ症候群の状態が長く続くと、心と身体に様々な症状が現れます。また、その影響は家庭内にとどまらず、職場や友人関係といった社会生活にも及ぶことがあります。

心と身体に現れる主な症状

ストレスが限界に達すると、自律神経失調症のような症状が現れ始めます。

・身体的症状
慢性的な頭痛、めまい、動悸、不眠、倦怠感、体重の急激な増減など。病院で検査を受けても異常なしと言われることが多く、原因不明の不調に悩まされます。

・精神的症状
抑うつ状態、パニック障害、情緒不安定(急に涙が出るなど)、無気力、自己評価の著しい低下。

・認知の歪み
私が悪いんだ、私の伝え方が下手だからだと自分を責める自責の念が強くなり、正常な判断ができなくなります。これをカサンドラ状態特有の罪悪感と呼びます。自己主張することを諦め、学習性無力感(何をしても無駄だという感覚)に支配されてしまうこともあります。

職場や友人関係で孤立してしまう理由

カサンドラ症候群の苦しみは、家庭の外では理解されにくいという特徴があります。

・周囲の理解不足
夫は外では真面目で優秀な社員であることも多く、妻が愚痴をこぼしてもあんないい旦那さんいないよ、男なんてみんなそんなものだよ、あなたの高望みじゃない?と返されてしまいます。これにより、私が間違っているのかもしれないという疑念が深まります。

・相談できない孤独
勇気を出して相談しても否定される経験を繰り返すと、誰にも本音を話せなくなり、友人関係を避けて孤立していきます。

・職場でのトラブル
家庭でのストレスで睡眠不足になったり、うつ状態になったりすることで、仕事でのミスが増えたり、集中力が低下したりします。また、上司や同僚がASD傾向を持っている場合、夫との関係がフラッシュバックしてしまい、過剰に反応して人間関係が悪化することもあります。夫と同じような話し方や態度をする人に対し、動悸がするなどPTSD(心的外傷後ストレス障害)のような反応が出ることもあります。

カサンドラ症候群から回復するための対処法

カサンドラ症候群から抜け出し、自分らしい人生を取り戻すためには、いくつかのステップが必要です。一人で頑張りすぎず、適切な対処法を知ることが大切です。次にわかりやすく解説します。

まずは自分の状態を正しく認識する

回復への第一歩は、自分がカサンドラ症候群であると気づき、認めることです。 私は努力不足ではない、夫との関係性が原因で病気になっているのだと認識するだけで、自分を責める気持ちが軽くなります。 関連する書籍を読んだり、インターネットで情報を集めたりして、今の自分の状態を客観的に理解しましょう。夫の行動がわざとではなく障害特性による脳の機能の問題だと知ることも、感情的な混乱を鎮める助けになります。夫を変えることはできなくても、自分の受け止め方や知識を変えることは可能です。

パートナーと適切な距離を置く

コミュニケーションがうまくいかない相手と、無理に向き合い続ける必要はありません。自分を守るために、心理的、物理的な境界線(バウンダリー)を引くことが重要です。

・期待値を下げる
言わなくても分かってほしい、普通はこうするはずという期待を手放します。夫には共感能力がないのだと割り切り、事務的なコミュニケーションに徹するのも一つの方法です。感情的な交流を求めないことで、傷つく回数を減らします。

・物理的な距離
寝室を別にする、週末は別々に過ごす、可能であれば別居をするなど、物理的に離れる時間を確保します。夫の視界に入らない時間を作ることで、神経を休めることができます。

・自分の世界を持つ
夫や子ども以外の、趣味や仕事、サードプレイス(第三の居場所)を持ち、そこで情緒的な交流を満たすようにします。家庭以外での評価や人間関係を大切にし、自己肯定感を回復させます。

専門家や自助グループへ相談する

孤独感の解消には、共感が不可欠です。 同じ悩みを持つ人が集まる自助グループやカサンドラ家族会に参加し、辛さを共有することで、私だけではないと安心感を得ることができます。そこでは、説明しなくても分かってもらえるという体験ができ、心が癒やされます。

また、心身の不調が強い場合は、心療内科やカウンセリングを受けることをおすすめします。 そして、子育ての負担が大きい場合は、療育などの専門機関を頼ってください。
例えば、ステラ幼児教室のような個別療育を受け、子どもの特性についての適切なアドバイスをもらうことで、家庭での対応が楽になり、母親の精神的な負担が軽減されます。また、子どもを預かってもらえるタイプの児童発達支援の事業所では、母親は一時的にケアから離れ、自分のための時間を持つことができます。子どもの成長を共に喜べる第三者の存在は、カサンドラ状態の母親にとって大きな救いとなります。

カサンドラ症候群についてのまとめ

カサンドラ症候群とは、ギリシャ神話に登場するトロイの王女カサンドラに由来する、パートナーとの情緒的な交流が持てないことによって生じる、心身の深刻な不調です。 その背景には、ASDやADHDといった発達障害の特性が関わっていることが多く、周囲からは理解されにくいという特徴があります。

自分が我慢すればいいと思い詰めないでください。カサンドラ症候群は、適切な対処と周囲のサポートがあれば、必ず回復に向かうことができます。 まずは自分自身を大切にし、専門家や同じ悩みを持つ仲間とつながることから始めてみましょう。

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