ADHD(注意欠如・多動症)は、子どもから大人まで幅広い年代で見られる発達障害の一つです。多動性や衝動性が目立つ場合は、周囲の人が気づきやすいですが、注意力の欠如や感情のコントロールの難しさなどの特徴は、外見からではわかりにくい場合もあるでしょう。
そこで本記事では、ADHDの「見た目でわかる特徴」と「見た目だけではわからない特徴」や、ADHDの子どものサポートについて解説していきます。この記事で、ADHDの子どもへの理解を深めましょう。
ADHDは見た目でわかるって本当?

近年、子どもだけに限らず大人でも発達障害の診断を受ける人が増えています。これは医学の進歩により発達障害に関する解明が進んだことで、これまで「手のかかる子」「物忘れしやすい子」として育ってきた人に診断がついてことも要因のひとつと考えられます。
世間に発達障害の存在が浸透し、知名度が上がってきたことで「ADHDは見た目で分かる」「ADHD特有の顔つきがある」といった噂を聞く事も増えました。
しかし、これらの噂に医学的な根拠はありません。
ADHDは見た目や顔つきから判断できず、むしろ見た目には健常者と変わらないからこそ障害や特性による困りごとを理解してもらえないケースが少なくありません。
大人であっても子どもであっても、ADHDは見た目だけで判断できない発達障害です。
ADHDってどんな発達障害?

ADHDは注意欠如や多動症などとも呼ばれ、年齢や発達段階に不釣り合いな「注意力の欠如」「多動性」「衝動性」を主な特徴とする発達障害の一種です。
これらの特性は、社会生活や学業において支障をきたすことがあります。具体的には、集中力の欠如、落ち着きのなさ、思いついた行動や言動を即座に起こすなどの行動が見られることが多いからです。ADHDの症状は7歳以前に現れ、その状態は継続するとされています。
中枢神経系の機能不全が関与していると考えられますが、正確な原因は完全には解明されていません。診断には、医師による詳細な評価が必要であり、早期の発見と適切な支援が重要です。
参考元:文部科学省
ADHDの特性について

ADHDの特性は以下の3種類に分類されます。
- 不注意優位型
- 多動性・衝動性優位型
- 混合型
それぞれの傾向についてさらに詳しくみていきましょう。
不注意優位型
不注意優位型の人には以下のような特性が見られる傾向にあります。
- 忘れっぽい
- ケアレスミスが多い
- 同じミスを何度も繰り返してしまう
- 外部の刺激(音や光など)に注意が向きやすい
- 集中力を持続させるのが苦手
- 物事を計画的に進めるのが苦手
不注意優位型の場合、外部の刺激によって気が散ってしまうことで、集中力の欠如や物忘れなどを起こしてしまうことが多いです。物を置いても、他の刺激に気を取られてしまい、物をどこに置いたか忘れてしまうため、失くし物をしやすい人が少なくないでしょう。
多動性・衝動性優位型
多動性・衝動性優位の人には以下のような特性が見られる傾向にあります。
- 落ち着きがない
- じっとしているのが苦手
- 早口になりやすい
- 相手の言葉を遮って話をしてしまう
- 思った事をそのまま言葉にしてしまう
- 怒りっぽい
多動性・衝動性優位型の場合、じっとしている事が苦手な人が多い傾向にあります。また、衝動性が強い人の場合は頭のなかで次々と考えが浮かんでいるため話に脈絡がなく、周囲の人には理解できない内容を話していることも珍しくありません。また、衝動をコントロールするのが苦手な人も多く、叱られた・注意されたなどの刺激をきっかけに癇癪を起こしてしまう人もいます。
混合型
混合型は、不注意優勢と多動性。・衝動性優位の両方の特性を持っています。どちらが強いのかは個人差が大きく、ADHDのなかでも特に多いのが混合型です。
ADHDの見た目でわかる特徴や傾向

ADHDの子どもには、授業中に席を立ったり、周囲の状況を気にせずにおしゃべりを続けたりするなど見た目でわかるような特徴があります。
こうした行動は本人の意思ではなく、脳の働きによるものです。そのため「わがまま」や「しつけの問題」と誤解されがちですが、環境の調整やサポートによって、改善できる部分もあります。
まず本項では、ADHDの見た目でわかる特徴や傾向について見ていきましょう。
落ち着きのなさ
たとえば、授業中に急に席を立ったり、手足を動かし続けたりするなどの行動が見られます。これは「多動性」と呼ばれるADHDの脳の特性で、本人の意思とは関係なく現れるものです。周囲の理解と適切なサポートをすることで、子どもたちの安心と成長につながります。
じっとしていられない
ADHDの特徴として、長時間同じ場所に留まっていることが難しい場合があります。
授業中や食事中でも、席を離れて歩き回ったり、体を揺らしたりするなどの行動が見られます。これも「多動性」の一部であり、本人が意図的に行っているわけではありません。理解と温かい見守りが、子どもの自己肯定感を育む鍵となります。
過度なおしゃべり
ADHDの特徴として、話し始めると止まらなくなる、相手の話を遮ってしまうなど、過度なおしゃべりが見られる場合もあります。
これは「多動性」や「衝動性」に関連し、思いついたことをすぐに口に出してしまう特性によるものです。周囲の方は、子どもの感情や話を温かく受け止め、適切なタイミングでの発言を促すサポートも大切です。
ADHDの見た目ではわからない特徴や傾向

ADHDの特徴の中には、外見だけではわかりにくいものもあります。これらの特徴は見えにくいため、本人も周囲も一見「努力が足りない」と誤解してしまうことがあります。しかし、これらの特性もADHDの一部であり、周囲のサポートによって適応していくことも多いのです。
ここでは、ADHDの「見た目ではわからない」特徴や傾向について解説していきます。
ケアレスミスが多い
ADHDの傾向として、注意力を持続するのが難しく、細かなミスを繰り返すことがあります。
たとえば、宿題での計算間違いや、持ち物の忘れ物などが頻繁に見られるなどです。これは「注意欠如」の特性によるもので、本人の努力や意識だけでは改善が難しい場合もあります。目に見えるチェックリストの活用や環境の整備などのサポートが、子どもの自信と成長につながります。
時間の管理をするのが苦手
ADHDの傾向として、時間の感覚を掴むことが難しく、宿題や遊びの時間配分が上手くいかないことがあります。
これにより、締め切りに間に合わなかったり、遅刻が増えることも。これは「注意欠如」や「衝動性」の特性によるもので、本人の意志だけでの改善は難しいことが多いです。タイマーやスケジュール表を活用し、時間の見える化をサポートすることで、子どもの時間管理能力を育む手助けとなります。
感情のコントロールが苦手
ADHDの傾向として、感情の起伏が激しく、些細なことで怒ったり、悲しんだりすることがあります。
これは「衝動性」などが関連し、本人もコントロールが難しいと理解しています。感情の爆発は、周囲とのトラブルの原因となる場合もあるかもしれません。深呼吸やリラックス方法を一緒に学び、感情を落ち着ける対策を身につけることで、子どもの心の安定と社会性の向上につながります。
大人になってからADHDの診断がつく人も増えている

近年「大人の発達障害」として、自閉症スペクトラムやADHDの診断を受ける人も増えています。
特に、ADHDは特性上「うっかりもの」「落ち着きのない子」「怒りっぽい子」など、健常の範囲と判断されてきた人が多い傾向にあります。発達障害の存在を知らず、困りごとを抱えながらも社会生活を送ってきた人が少なくないのです。
大人の発達障害やADHDの存在が広まったことで「もしかしたら自分もADHDかもしれない」と感じた人が、発達検査を受けて診断がおりるケースもあります。
ADHDの診断を受ける流れ

自分自身や自分の子どもがADHDかもしれないと感じた時には、どのように診断を受けるのでしょうか。続いては、ADHDの診断を受けるまでの流れを紹介します。
STEP1.医療機関を受診する
基本的に発達障害の確定診断は医療機関で行われます。大人であれば精神科、子どもであれば児童精神科や発達外来などを受診するのがよいでしょう。
住まいの児童発達支援センターや発達障害相談窓口などに問い合わせると、近隣の医療機関を紹介してもらえることがあります。
STEP2.検査や評価を受ける
医療機関を受診して発達検査や評価を受けます。知能検査や心理検査、行動観察などを行うことが多いです。この時、子どもの頃の通知表など過去の日常的な様子を確認できる資料があるとよいでしょう。ADHDの子どもの場合、通知表などの「落ち着きがない」「じっとしているのが苦手」「お喋りが多い」などと書き添えられていることも珍しくありません。
もしも保護者が日記をつけている場合、幼少期の様子を知れる重要な情報源になるため持参するとよいでしょう。
STEP3.診断結果の通知を受ける
さまざまな検査を受けたのち、医師から診断結果の通知を受けます。ADHDだった場合、これからどのように困りごとを解消していくのか、日常生活のどのような所に気を付けるべきなのかなど、気になることをリストアップしておくと医師に聞きやすいでしょう。
【要注意】ADHDは自己判断してはいけない

近年、ADHDをはじめとした発達障害の存在が多くの人に知られるようになりました。ネット上にはさまざまな情報があふれており、ADHDを気軽にセルフチェックできるサイトもあります。
しかし、ADHDをはじめとした発達障害を自己判断するのは大変危険です。
発達障害は自閉症スペクトラムとADHDを併発するケースも少なくありません。また、統合失調症やうつ病、適応障害、パニック障害など精神的な疾患が原因となってADHDに似た行動が見られるケースもあります。自己判断してしまい、医療機関と繋がるのに時間がかかり病気の治療が長引いてしまうことも多いです。
もちろん、セルフチェックなどをしてみて自分の行動や特性を見つめなおすのは問題ありません。しかし過度に信じすぎず、生活に困り事が起こっているのであれば、専門機関に相談するのがよいでしょう。
ADHDの子どもの接し方

ADHDの子どもと接する際は、特性を理解し、温かくサポートすることが大切です。以下のポイントを意識するといいでしょう。
指示は短く、具体的に伝える
「静かにしなさい」よりも「今は椅子に座ろうね」のように具体的に伝えましょう。
視覚的なサポートを活用する
スケジュール表やイラストを使うと、子どもが理解しやすくなります。
できたことをしっかり褒める
「ポジティブな声かけをすると、自己肯定感が高まり自信がついてきます。
環境を整えてあげる
刺激を減らし、静かで集中しやすい環境を作ることが必要です。
ルールや日課を一貫させる
予測できる環境を作ることで、安心感が生まれていきます。
保護者自身も無理をしない
支援機関や専門家と連携して、一人で抱え込まないことが大切です。
ADHDの子どもの支援

ADHDの子どもには、多方面からの支援が重要です。医療・教育・家庭で協力し合って、子どもの成長をサポートしましょう。
医療面の支援
- 専門医による正しい診断を受け、必要に応じて薬物療法を検討
- カウンセリングや行動療法を活用し、自己調整力を育てる
教育面の支援
- 学習内容を調整し、子どもが集中しやすい環境を整える
- 休憩時間を適切に設けて、無理なく学習できるようにする
- 特別支援教育や個別支援計画(IEP)※などを活用する
※IEPは、一人ひとりのニーズに合わせた支援の計画書です。教育の現場や児童発達支援の現場などで用いられます
家庭でのサポート
- ペアレント・トレーニング※を受け、子どもへの対応を学ぶ
- ソーシャルスキルトレーニングで、社会性を身につける機会を提供
- 発達障害者支援センターや相談機関を活用し、支援を受ける
※ADHDなどの発達特性を持つ子どもの行動を理解し、適切に対応するための保護者向けの学習プログラム
家庭・学校・医療機関と連携して、一貫した支援を行うことで、子どもが自信を持って成長できる環境を整えましょう。
ADHDについて相談できる機関

病院
精神科・心療内科・児童心療内科・発達障害専門外来などdで診断を受けられます。病気も視野に入れて診察を受けられる点がメリットです。一方、予約をとるのが難しく、数カ月先の予約やキャンセル待ちになってしまうケースもあります。
療育センター
子どもの発達障害に関する専門機関です。診断を受けられる医療機関を紹介してもらえたり、支援を受けたりすることができます。家族からの相談にも対応しています。
発達障害者支援センター
各都道府県・指定都市に設置されている専門機関です。診断を受けられる医療機関を紹介してもらえたり、支援を受けたりすることができます。家族からの相談にも対応しています。
精神保健福祉センター・保健福祉センター
発達障害に関する相談ができます。家族からの相談にも対応しています。
ADHDに関するまとめ
ADHD(注意欠如・多動症)は、注意力の欠如、多動性、衝動性を特徴とする発達障害で、日本の子どもの約5%に見られるとされています。見た目でわかる特徴として、落ち着きのなさや過度なおしゃべりがあり、見た目ではわからない特徴として、ケアレスミスの多さや時間管理の苦手さ、感情のコントロールの難しさなどが挙げられます。
ADHDの子どもと接する際は、短く具体的な指示、視覚的サポート、褒めることを意識し、安心できる環境を整えることが大切です。また、支援には、医療支援、教育支援、家庭でのサポートなどと連携することが重要です。家庭・学校・専門機関と連携しながら、子どもが自信を持って成長できる環境を整えていきましょう。












