子どもの成長には、その子らしいペースがあります。早くできることもあれば、少し時間をかけて身につけていくこともあります。それは決して「遅れている」のではなく、その子が歩む成長のかたちです。 それでも、まわりの子と比べて「うちの子はどうなんだろう」と感じることがあるかもしれません。
そんなとき、「定型発達」という言葉にふと目がとまる方もいるかもしれません。定型発達とは、多くの子どもに共通して見られる発達の流れを示す考え方です。
本記事では、定型発達の基本的な考え方と、非定型発達・発達障害の違いについてわかりやすく解説します。これらを深く理解し、その知識を日々の子育てに活かしてみましょう。
定型発達とは何か?

「定型発達」という言葉を聞くと、少し難しく感じるかもしれません。
これは子どもの発達の状態を表すときに使われる基本的な考え方のひとつです。ここでは、その意味と特徴をわかりやすくご紹介します。
定型発達とは多くの子どもに見られる発達の特徴
定型発達のお子さんでは、おおよそ90%が生後15か月ごろまでに言葉を話し始めるといわれています。1歳6ヶ月頃になると、ほとんどのお子さんが周りの大人と目を合わせたり、指差しをしたりといったコミュニケーションの姿が見られます。
たとえば、運動面では次のような成長の目安があります。
- ●1歳前後:一人歩きを始める
- ●2歳頃:走れるようになる
- ●3歳頃:片足立ちができるようになる
ただし、これはあくまで目安のひとつにすぎません。子どもの成長には個性があり、得意なことやゆっくり育つ部分も、人それぞれです。
定型発達という枠にとらわれすぎず、お子さんのペースを大切に見守ることが何より大切です。
発達障害と比べて使われる言葉
定型発達という言葉は、1990年代の初め頃から使われるようになりました。もともとは、自閉スペクトラム症をはじめとする発達障害を持たない方々を指すために使われている言葉です。
日本では、発達障害のあるお子さんやそのご家族の間では比較的よく知られている言葉ですが、一般的にはあまり馴染みがないかもしれません。これは、定型発達という概念が主に発達障害との対比の中で意味を持つためです。お子さんの発達について考える機会があって、初めて意識されることが多い言葉といえます。
何が違う?定型発達と発達障害

定型発達と発達障害のあいだに、はっきりとした線引きは存在しません。専門家の間でもその境界は曖昧であるという認識が一般的です。
お子さんの特性を理解し、適切な支援につなげるには、両者の違いを知ることが大切です。しかし、白黒では割り切れない世界であることも心に留めておきましょう。
以下、一般論としての定型発達と発達障害の違いをまとめました。
成長するスピードが違う
発達障害のあるお子さんも、成長の流れそのものは定型発達と同じです。ただし、精神機能が育つスピードが全体的、あるいは一部の分野でゆっくりであることがあります。
大切なのは、「ゆっくり」であることを「悪いこと」と捉えないことです。お子さん一人ひとりに合ったペースで、着実に成長していることをわかってあげてください。
得意なことと苦手なことが違う
発達障害のあるお子さんは、得意な分野と苦手な分野の差が定型発達よりも大きい傾向があります。
定型発達の場合、さまざまな能力が比較的平均的に発達していくのに対し、発達障害では特定の領域で著しい苦手さが現れます。
たとえば、限局性学習症(学習障害)の場合、全体的な知的水準は平均的であっても、読み・書き・計算など特定の領域に強い苦手さが見られることがあります。けれども、これは「できない」というよりも、脳の働き方に特徴があるということです。適切な支援や学び方を工夫することで、得意な部分を活かしながら苦手な部分を補っていけます。
周りに合わせやすいかどうかが違う
定型発達のお子さんは、周囲の雰囲気を読み取りながら行動することが比較的得意で、相手の気持ちや場の空気に応じた柔軟な対応ができる傾向があります。一方で、自閉スペクトラム症の特性を持つお子さんは、言葉を文字通りに受け取ったり、社会的な文脈を理解することが難しい場合があります。
たとえば、定型発達のお子さんは4〜5歳頃になると、ルールのある遊びに参加し、友だちと協力しながら遊ぶ力が身につきます。しかし、発達障害のあるお子さんは、集団での活動やルール理解に時間がかかることがあります。これは努力の問題ではなく、脳の情報処理の仕組みが違うために起こる自然なことです。
お子さんが少し違った反応を見せても、それは「その子らしさ」であり、人と異なる発達の道筋をたどっているだけです。焦らず、寄り添いながら、お子さんの世界を一緒に見つめてあげてください。
非定型発達とは?

非定型発達とは、医学的な診断名ではなく、発達の特徴や多様なあり方を指す言葉です。近年では、「発達障害」という表現に代えて、「非定型発達」や「発達特性」「発達の凸凹(でこぼこ)」など、個性を尊重した表現が用いられるようになっています。
定型発達に当てはまらない発達のこと
非定型発達とはその名の通り「定型発達」に当てはまらない発達のあり方を指します。発達障害を「障害」という枠でとらえるのではなく、脳の情報処理の特徴や思考のスタイルといった”個性”として理解する考え方が広がっています。
0か100かで分けられない発達の特性
最近の発達理解では、「スペクトラム(連続体)」という考え方が大切にされています。これは、特性の表れ方や強さが人によって少しずつ違う、という意味です。
そのため、発達の特性を白か黒かのように分けることはできません。診断の一部に当てはまるけれど、確定的な診断には至らない状態は「グレーゾーン」と呼ばれます。
非定型発達を個人差とする見方も
子どもの発達には、誰にでも小さな凸凹があります。言葉が早い子もいれば、体の動きが得意な子、人との関わりがゆっくりな子もいます。それぞれの違いは、決して特別なものではなく、その子らしさのひとつです。
こうした考え方から、最近では脳や感じ方の違いを「個性」として受け止め、ありのままを尊重しようという動きが広がっています。 「違いがある」ことを分けるのではなく、「違いがあって当たり前」と思える人が、現代社会では増えているのでしょう。
定型発達を知って子育てに活かす考え方

お子さんの発達について相談するとき、「発達の目安」を参考にされる方は多いでしょう。ただし、お子さんの成長にはそれぞれのペースがあり、発達の仕方も一人ひとり異なります。その違いを理解しながら、穏やかに見守る姿勢が大切です。
ここでは、定型発達の知識を子育てに活かすコツをご紹介します。
発達の目安として参考にする
厚生労働省の「保育所保育指針解説書」でも、幼児期の発達には大きな個人差があり、目安はあくまで参考のひとつにすぎないとしています。
たとえば「言葉」ひとつとっても、増え方は一直線ではありません。ゆっくり溜めてから溢れ出す子もいれば、最初から順調な子もいます。
仮に言葉の発達がゆっくりでも、他の面でその子らしい成長が見られれば、それは順調な育ちの形といえるでしょう。
これは運動面でも同じです。歩き始めが1歳3ヶ月の子もいれば、1歳半を過ぎてから歩く子もいます。どうしても不安なときは、乳幼児健診や小児科に相談してみましょう。
他の子どもと比べすぎない
子どもの成長は、一人ひとり違う歩み方をします。早くできることもあれば、時間をかけて身につくこともあります。ですが、周りを見てつい「どうしてうちの子は……」と思うことがあるかもしれません。
しかし、比べることが目的になってしまうと、お子さんの今の姿を見失ってしまいます。大切なのは、他の子ではなく、「その子自身のペース」を見てあげることです。
うまくいかない日も、思いがけず笑える日も、すべてがお子さんの成長の一部です。周りと比べるのではなく、その子なりの小さな一歩を一緒に喜びましょう。
兄弟それぞれの良いところを見る
たとえ兄弟姉妹でも、成長のスピードや得意なことには違いがあります。早くできる子もいれば、時間をかけて力を伸ばす子もいます。
短い時間でも一対一で関わる時間を意識的に作ると、お子さんは「自分はちゃんと見てもらえている」と感じられます。その安心感が積み重なることで、自己肯定感が育ちます。
落ち着いて過ごせる環境を作る
お子さんの様子が不安定なときは、まず環境を整えることから始めてみましょう。
心の安心は、環境の安心から生まれます。臨床心理学でも、少しずつ安心を積み重ねていく関わり方が大切だとされています。
まず、不安が強いお子さんほど、信頼できる大人と一対一で過ごす時間を持つことが必要です。その中で、「自分はここで安心していていい」と感じられるようになります。そして、親が「してもいいこと」や「選べること」を具体的に見せてあげると、自分で決められるという感覚が育ちます。
少し落ち着いてきたら、簡単なお手伝いや役割を任せ、感謝を伝えてみましょう。「自分は家族の中で大切な存在なんだ」と感じる経験が心の安定につながります。
子どもの定型発達に関するよくある質問
最後に、お子さんの成長と発達に関するよくある質問と回答をまとめました。
言葉が遅いのは発達障害の可能性がある?
小児科では、1歳6ヶ月健診で「呼びかけに振り向くか」「指差しでやり取りができるか」といった点を確認します。名前を呼んでも反応がない、指差しがまったく見られないといった場合は、早めに相談することをおすすめします。
また、注意欠如多動症など他の発達特性は、集団生活が始まってから気づかれることもあります。専門医の予約は数ヶ月待ちの場合もあるため、まずはかかりつけの小児科で相談しましょう。その後、必要に応じて児童発達支援事業所や地域の発達相談センターを紹介してもらうとよいでしょう。
定型発達の子どもでも育てにくいと感じることはある?
発達障害の診断がないお子さんでも、「育てにくい」と感じることは珍しくありません。生まれつき感受性が高かったり、環境の変化に敏感だったり、泣き出すと切り替えが難しかったりと、気質の違いが影響していることもあります。これは親の育て方に問題があるのではなく、生まれ持った性質によるものです。
完璧を目指すのではなく、今の状況でできることを少しずつ取り組んでみましょう。お子さんも、保護者の方も無理をしすぎないことが何より大切です。
非定型発達の子どもは将来困ることが多い?
現実問題として、社会生活で困ることが増えるのは事実でしょう。
しかし、非定型発達のお子さんの場合も、適切な支援や学びの場があれば、社会で活躍する力を育めます。早期に療育を始めることで、集団生活への適応や学習のしやすさが高まるとされています。また近年では、ニューロダイバーシティ(神経多様性)の考え方が広がり、発達の特性を「個性」として生かせる環境づくりも進んでいます。
大切なのは発達特性そのものではなく、お子さんの得意を見つけ、周囲が理解と支援をもって関わることです。
ステラ幼児教室・個別支援塾では、お子さん一人ひとりの個性や特性に合わせて支援をしています。
お子さんの発達でお悩みのときは、お気軽にご相談ください。
定型発達を目指して育てるべき?
現代の発達心理学では、「定型発達を目指す子育て」という考え方は見直されつつあります。発達の平均や基準に合わせることよりも、お子さんが自分のペースで安心して成長できることが大切です。
発達から見た子どもの特徴と子育ての考え方まとめ
子どもの発達はグラデーションのように連続し、成長のスピードや得意・苦手のバランス、社会性の伸び方それぞれに個性があります。それは定型発達の子も、非定型発達の子も本質は変わりません。
子育てでは、発達の目安をひとつの参考として受け止めながら、お子さんらしさや強みを見つけていくことが何より大切です。気になることがあったときは、ひとりで抱え込まず、専門家や身近な人に相談してみてください。支えの中で子どもは成長し、親も安心して向き合えるようになります。
ステラ幼児教室・個別支援塾では、お子さん一人ひとりの発達特性を見極め、その子に合った支援を行っています。
お子さんの発達について気になることがあれば、まずはお気軽にご相談ください。












