「うちの子、授業のノートが全然取れなくて」
「宿題に何時間もかかって、夜遅くまで終わらない」
こうした悩みを抱えている保護者の方は少なくありません。
子どもが一生懸命がんばっているのに、なかなか文字が書けない様子を見ると心配になるものです。
書くことへの困難さは努力不足ではなく、脳の情報処理の特性が原因の場合があります。この特性の1つが「書字障害(ディスグラフィア)」です。
本記事では、書字障害のある子どもの見え方や診断基準、家庭でできる支援方法まで詳しく解説します。
書字障害とは?

まずは書字障害の基本的な特徴と、混同されやすい読字障害との違いをご紹介します。
書字障害はどんな状態?
書字障害(ディスグラフィア)とは、知的な発達に遅れがないにもかかわらず、文字を書くことに著しい困難を示す状態をいいます。医学的には「限局性学習症(SLD)」の一種とされています。
書字障害の主な特徴は以下の3つです。
- 文字の形がうまく認識・記憶できない
- 視覚と手の動きがうまく連動しない
- ワーキングメモリ(短期記憶)の容量が少ない
たとえば、漢字の「へん」と「つくり」を逆に書いたり、鏡文字になったりします。黒板を見た直後にノートに視線を移すと、さっき見た文字を忘れてしまうこともあります。
つまり、書字障害は本人の努力不足ではなく、脳の機能特性によるものなのです。視力が悪い人が眼鏡を必要とするのと同じように、特性に合わせた支援が必要になります。
読字障害との違いは?
読字障害(ディスレクシア)は文字を読むこと、書字障害は文字を書くことが難しい状態です。どちらも学習障害の一種ですが、困難を示す領域が異なります。
読字障害と書字障害は同時に現れることが少なくありません。特にディスレクシアでは、読み書き両方に困難が見られることがあります。
その一方で、読むことはできるのに書くことだけが極端に苦手という、書字障害単独のケースも存在します。
「うちの子は読めるから大丈夫」と判断せず、書くことへの困難さにも注意を向けることが大切といえます。
子どもが書字障害で困ることとは?

書字障害のある子どもは、学校生活や日常生活でさまざまな困難に直面します。ここでは、見え方の特徴から具体的な困りごとを見ていきます。
書字障害のある子どもの見え方
書字障害があると、文字を見る段階から独特の困難を抱えます。視力そのものに問題があるわけではなく、目から入った情報を脳が処理する過程に特性があるためです。
具体的には、以下のような見え方をしているとされます。
- 「わ」と「れ」、「シ」と「ツ」など似た形の文字が区別しにくい
- 漢字の構成要素が認識しにくく、「坂」の「へん」と「つくり」を逆に書いてしまう
- マス目の中に文字を収められず、はみ出してしまう
- ノートの罫線をまたいで文字を書いたり、行を飛ばして書いたりする
このような見え方の違いがあると、授業中にノートを取るのが遅れたり、宿題に時間がかかったりします。
子どもは「ちゃんと見よう」と努力しているのに、脳の情報処理の特性が原因で思うようにできないのです。
勉強で困ること
書字障害のある子どもは、「理解力はあるのに成績に反映されない」という状況に直面します。知識と書字能力に著しい乖離があるため、周囲から困難さを理解されにくくなるのです。
一部の子どもは、授業中は黒板の文字をノートに写す動作が極端に遅くなります。書き写している間に授業が先に進んでしまい、ついていけません。また、ノートを取ることに集中するあまり、先生の話が頭に入らないこともあります。
テストでは、時間内に答案を完成させることが難しくなります。算数の計算はできるのに答えを書けないため、本来の理解度が評価されない子が少なくありません。
先述したように、文字の形を脳に定着させる過程に困難があるため、思うように書けないのです。「漢字をノートに何回も書いて覚えなさい」という指導は、その子を苦しめてしまいます。
日常生活で困ること
連絡帳が書けない、手紙やメモが書けないことで、友達とのコミュニケーションにも支障が出ます。誕生日カードや年賀状を書くことが負担になり、人間関係に影響することもあります。
こうした困難の積み重ねが、子どもの自己肯定感を低下させてしまうことがあります。
「みんなができることが自分にはできない」という経験を繰り返すうち、学習意欲そのものが失われていくことも少なくありません。
書字障害の診断はどう受ける?
書字障害は早期発見・早期支援が重要です。ここでは、診断を受けるべきタイミングと、実際の診断の流れについて説明します。
診断を受けるタイミング
小学校低学年(1〜2年生)の段階で、以下のような様子が見られたら、専門家への相談を検討してください。
- ひらがなの形が覚えられず、鏡文字を書くことが多い
- マス目からはみ出すことが頻繁にある
- 授業中にノートが取れず、白紙のまま持ち帰ることが続く
- 自分の名前を書くことさえ困難な様子が見られる
診断と聞くと、「子どもにレッテルを貼るのでは」と不安になる保護者がいます。
ですが実際は、「どうすればその子が楽に学べるか?」を知るために必要なプロセスです。早めに相談することで、その子に合った支援方法がきっと見つかります。
基本的な診断の流れ
最初のステップとして、市区町村の児童発達支援センターや教育相談所に相談することをおすすめします。診断がなくても相談可能です。
次に、医療機関での診察に進みます。小児神経科、児童精神科、発達外来などで、WISC-V(ウィスク5)という知能検査が実施されることが一般的です。
WISC-Vでは5つの指標を測定します。
| 指標 | 測定内容 |
|---|---|
| 言語理解指標(VCI) | 語彙や文法理解 |
| 視空間指標(VSI) | 形や空間認識 |
| 流動性推理指標(FRI) | 抽象的思考 |
| ワーキングメモリー指標(WMI) | 短期記憶や作動記憶 |
| 処理速度指標(PSI) | 速度処理能力 |
書字障害の場合、特にワーキングメモリー指標と処理速度指標が低くなる傾向があります。文字を一時的に記憶しながら書く作業が苦手なため、これらの数値に特性が表れやすいのです。
診断後は診断書が発行されます。必要な部数については、事前に学校や教育委員会に確認しておきましょう。
家庭でできる書字障害のトレーニングとは?

書字障害のある子どもへの支援は、家庭で始められます。ここからは、デジタルツールを使った支援方法や、日々の練習でできる工夫をご紹介します。
タブレットやパソコンを上手に使う
書字障害のある子どもにとって、タブレットやパソコンは「筆記に代わるツール」になります。書くことの困難さが取り除かれることで、本来の能力を発揮できるのです。
たとえば、タブレットのデジタルノートアプリがあれば、授業中は黒板を撮影し、自宅でゆっくりノートを整理できます。「その場で書く」というプレッシャーから解放されることで、授業内容の理解に集中できるようになります。
漢字学習についても、なぞり書きや部首パズルなど、ゲーム感覚で学べるデジタル教材が充実しています。困難さの状況にあわせて、最適なツールを用意してあげましょう。
ただし、タブレットの導入は「手書きを完全に諦める」ことを意味するわけではありません。子どもの特性に合わせて、手書きとデジタルを組み合わせることが大切です。
文字を書く練習で大切なこと
もっとも大切なのは「肯定的なフィードバック」です。「上手に字が書けてるね」「すごいね!」といった声かけを積極的に行えば、子どもは「自分もできる」と思い始めます。自信がつくと、自発的に文字を書こうという気持ちにつながります。
どんなに効果的なトレーニングでも、その子が嫌になってしまっては続きません。小さな成功を認めることが、継続的な成長につながります。
忙しくてもできる支援の方法
忙しいご家庭では、書く量を減らす工夫から始めてみましょう。
具体的には、「一文字だけ書く」「ひらがなで良い」といったスモールステップを設定します。小さな成功体験が自信につながり、「もう一回やってみよう」という前向きな気持ちを生みます。
そして何より、「書けなくても大丈夫」というメッセージを子どもに伝え続けましょう。
親が焦りや不安を見せると、子どもはそれを敏感に感じ取ります。「書く以外の方法で学んでみよう」という前向きな姿勢を示すことが、その子の心を支えます。
書字障害のサポートや支援方法とは?

書字障害のある子どもは、学校や専門機関でさまざまな支援を受けることができます。2024年4月からは法的な義務も強化されました。
学校で受けられるサポート
2024年4月に改正された「障害者差別解消法」により、学校は合理的配慮を提供する法的義務を負うようになりました。支援は学校の「好意」ではなく「法的義務」へと変わったのです。
ここでいう合理的配慮とは、一般に以下を指します。
- タブレット端末の使用許可(授業ノートをデジタルで取る、黒板を撮影する)
- 定期テストでの解答欄の個別作成、試験時間の延長
- 漢字テストの形式の工夫(選択式への変更など)
- 板書量や板書方法の調整、プリントの活用
なお、受験時の合理的配慮については、医師の診断書やこれまでの支援記録の提出を求められることがあります。具体的な要件は自治体や学校によって異なるため、あらかじめ確認してください。
専門機関で受けられる支援
継続的な支援が必要な場合、児童発達支援センターや放課後等デイサービスに相談してみましょう。手指の微細運動を育てる活動や、視覚認知・ビジョントレーニング、タブレットを使った学習支援など、子どもの特性に合わせたプログラムを用意しています。
大人の書字障害とは?
近年は、仕事や生活上の困りごとをきっかけに、大人になってから学習障害や発達障害の診断を受ける人が少なくありません。
大人の書字障害では、伝票や書類作成における困難が生じます。しかし、パソコンやタブレットを活用することで多くの業務をこなせますし、職場での合理的配慮を申請することで困難さを軽減できます。
さらに、トレーニングによる改善も見込めます。適切な支援やICT(情報通信技術)活用によって、負担を減らしながら生活と仕事を両立させられます。
書字障害のよくある質問
書字障害について、保護者の方からよく寄せられる質問にお答えします。治療の可能性やトレーニングの効果について解説します。
書字障害は治りますか?
医学的な根本治療法は現時点では存在しません。ただし、「治らない」と「改善しない」ことは異なります。
脳には可塑性(かそせい)という、新しい環境に適応して変化する力があります。この力を活かした早期支援により、多くの子どもが読み書きの困難を軽減できた報告があります。
ポイントは、「治す」という発想ではなく、「特性に合わせた方法を見つける」という考え方です。視力が悪い人が眼鏡をかけるように、タブレットやパソコンといった補助ツールを使うことで、本来の能力を発揮できるようになります。
トレーニングで改善できる部分はありますか?
適切なトレーニングによって、読み書きが改善されたケースは少なくありません。改善の程度やかかる時間には個人差があるため、専門家の評価を受けつつ、その子に合ったトレーニングを続けることが大切です。
学習障害との違いは何ですか?
学習障害(LD)は読み書き、計算、推論といった特定の能力に著しい困難を示す状態の総称です。つまり、書字障害は、この学習障害の一種にあたります。
また、学習障害は知的障害とは異なります。知的な発達に遅れがないにもかかわらず、特定の領域だけに困難を示すのが特徴です。
書字障害の特徴と支援方法のまとめ
書字障害は、本人の努力不足ではなく、脳の情報処理機能に特性があることが原因です。視力が悪い人が眼鏡を必要とするのと同じように、特性に合わせた支援が必要になります。
子どもの書字に関してお悩みの方は、まずは市区町村の児童発達支援センターや教育相談所に相談してみてください。診断がなくても相談に乗ってもらえます。
なお、ステラ個別支援塾では、書字障害の子ども一人ひとりの特性に合わせた個別支援を行っています。子どもの学習でお悩みのときは、お気軽にご相談ください。
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