入学を控えた親の不安と小1プロブレム

ランドセルを選び、文房具を揃え、我が子の晴れ姿を想像して胸を躍らせる時期。しかし同時に、親の心にはある不安がよぎります。
うちの子、45分間もじっと座っていられるだろうか。先生の話をちゃんと聞いて、みんなと一緒に行動できるだろうか。
幼稚園や保育園ではのびのびと遊んでいた我が子が、小学校という規律ある環境に馴染めるのかどうか、心配になるのは当然のことです。近年、小学校に入学したばかりの子どもたちが学校生活に適応できず、授業が成立しなくなる小1プロブレムという言葉をよく耳にするようになりました。
もしかして、うちの子もそうなるのではないか。落ち着きがないのは、性格ではなく発達障害だからではないか。
そんな不安を抱える保護者の方へ向けて、この記事では小1プロブレムとは何か、その正体について、文部科学省の定義を交えて詳しく解説します。
また、家庭でできる対策についてもご紹介します。
文部科学省の定義から見る小1プロブレムとは

まずは、小1プロブレムとは具体的にどのような状態を指すのか、文部科学省の定義や現場での様子を確認します。
授業中に座っていられないなどの具体的な行動
入学して間もない1年生の教室で、以下のような光景が見られることがあります。
授業中に歩き回る、私語が止まらない。教室から勝手に出て行ってしまう。先生の指示に従わず、集団行動がとれない。黒板の文字をノートに書き写せず、遊び始めてしまう。給食の時間になっても座って食べられない。
これらは決して特別な学校だけで起きていることではなく、全国的に見られる現象です。ひとりの子どもだけでなく、クラスの複数がこのような状態になり、先生が注意に追われて授業が進まなくなってしまう状況を指します。クラス全体が落ち着きを失うと、真面目にやろうとしている子までもが集中できなくなり、学級全体の機能が低下してしまいます。
文部科学省が定義する小1プロブレム
文部科学省などの公的な資料では、小1プロブレムについて、小学校に入学した直後の児童が、集団行動がとれない、授業中に座っていられない、話を聞かないなどの状態が続き、学級経営や授業が成立しなくなる状態と説明されることが多いです。
重要なのは、これが特定の子どもの個人的な問題(わがままやしつけ不足)としてではなく、学校というシステムや社会環境との摩擦によって生じる社会的な課題として捉えられている点です。子ども自身も、新しい環境に適応できずに戸惑い、ストレスを感じてSOSを出している状態と言えます。
なぜ今小1プロブレムが増えているのか
昔から落ち着きのない子はいましたが、近年になってプロブレムとして社会問題化した原因は何でしょうか。背景には、子どもを取り巻く環境の変化があります。
少子化や核家族化により、異年齢の子どもと関わる機会や、我慢する経験が減っていること。就学前教育(幼稚園・保育園・こども園)と小学校教育の連携がスムーズにいっていないこと。また、社会全体が効率や規律を求めるようになり、子どもたちの少しのはみ出しも許容されにくくなっていることも、問題を表面化させている一因と考えられます。
小1プロブレムが起こる原因は環境のギャップ

小1プロブレムの最大の原因は、子ども自身の資質というよりも、就学前と就学後の環境の激変、いわゆる段差にあると考えられています。
幼稚園や保育園と小学校の大きな違い
幼稚園や保育園での生活は、遊びが中心です。自分の好きな遊びを選び、興味のあることに没頭し、先生は個々の子どもの欲求に寄り添ってサポートしてくれます。主体性やのびのびとした感性を育むことが重視され、プロセス(過程)が認められる環境です。
一方、小学校に入った途端、生活の中心は学習に変わります。全員が同じ方向を向き、同じ教科書を開き、同じペースで学ぶことが求められます。自分の興味に関係なく、時間割に従って行動しなければなりません。評価の軸も結果へとシフトします。この自由から規律への急激な変化に、子どもの心と体がついていけなくなるのです。
コミュニケーションルールの変化
先生との関わり方も大きく変わります。園では手厚く世話をしてくれましたが、小学校では先生一人で30人から40人の児童を指導します。
指示は全体に向けて一度だけ出されることが多くなります。「全員、教科書を開いて」と言われたとき、自分事として受け止められず、聞き逃してしまう子がいます。また、発言には挙手が必要、トイレは許可制など、新しいルールや距離感の違いに馴染むまでには時間がかかります。自分を見てほしいのに見てもらえない不安が、気を引くための問題行動として現れることもあります。
45分間座り続けることの難しさ
身体的な発達の視点からも、小1プロブレムを考える必要があります。入学したばかりの6歳児にとって、45分間椅子に座り続け、姿勢を保つことは、実はかなり高度な身体能力を必要とします。
近年は体幹が十分に育っていない子どもも多く、長時間座っているだけで疲れて姿勢が崩れます。座っていられないのは、やる気の問題ではなく、まだ身体がその負荷に耐えられない未発達な状態である可能性もあります。さらに、給食を短時間で食べる、和式トイレを使うといった生活面での細かいギャップも、子どもにとっては大きなストレスとなります。
発達障害との違いは環境要因か特性か

子どもが学校で落ち着きがないと聞くと、親として一番に頭をよぎるのは発達障害の可能性ではないでしょうか。小1プロブレムと発達障害との違いはあるのでしょうか。
集団行動が苦手なのは障害が原因なのか
授業中に立ち歩く、衝動的に発言する、忘れ物が多い。これらの行動は、ADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)といった発達障害の特性と非常によく似ています。そのため、学校からの指摘や周囲の視線によって、うちの子は障害があるのではないかと悩むケースも増えています。
しかし、行動だけで即座に発達障害と診断されるわけではありません。その行動が、環境の変化による一時的な混乱なのか、脳の機能的な特性によるものなのかを見極める必要があります。
環境の変化による一時的な不適応との違い
小1プロブレムの多くは、環境の変化に適応する過程で起こる一時的な不適応反応です。最初は戸惑い、反発していても、学校のルールを理解し、生活リズムが整い、先生や友達との信頼関係ができてくれば、数ヶ月から半年程度で自然と落ち着いてくることがほとんどです。
一方、発達障害の場合は、環境に慣れても困難さが持続する傾向があります。本人がどれだけ努力しても、座っていることが苦痛であったり、指示が理解できなかったりする場合は、専門的な支援が必要な可能性があります。
発達障害の特性が小1プロブレムを助長することも
ただし、両者はきれいに分けられるものではありません。発達障害の特性(グレーゾーン含む)を持っている子どもは、環境の変化に対して特に敏感で、ストレスを感じやすい傾向があります。
感覚過敏で教室の音が苦痛、ワーキングメモリの課題で指示を覚えられない、切り替えが苦手といった特性がある場合、環境のギャップをより強く感じてしまいます。その結果、小1プロブレムの状態が強く、長く出てしまうことがあり、この場合は個別の配慮や環境調整などの対策が必要です。
入学前に家庭でできる小1プロブレム対策とは

過度に恐れる必要はありませんが、入学前に少し準備をしておくことで、子どもが感じるギャップを小さくすることは可能です。
生活リズムを整えて朝の準備を習慣化する
学校生活の基本は時間管理です。年長のうちから早寝早起きを習慣化しましょう。余裕を持って起き、朝食を食べ、排泄を済ませてから家を出る。この生活リズムが整っているだけでも、学校生活への適応は格段にスムーズになります。脳が覚醒していない状態で勉強することは不可能です。また、「長い針が6になったらお片付け」といった声かけで、時間を意識する感覚を養いましょう。
話を聞く姿勢を育てる親子のコミュニケーション
人の話を聞く力は家庭で育めます。まずは親が子どもの話を聞くモデルを示し、伝えるときはテレビを消して目を見て話します。
遊びの中で聞く力を育てるのもおすすめです。例えば、「旗揚げゲーム」のような指示を聞いて動く遊びは、楽しみながら集中力と聞く力を養えます。「赤上げて」という言葉を聞いてから動くプロセスが、授業中の指示聞き取りの練習になります。
さらに、家庭で「学校ごっこ」を取り入れるのもおすすめです。親が先生役、子どもが生徒役になり、「起立、礼、着席」の号令や、名前を呼ばれて元気に返事をする練習を遊びの中で行います。最初は5分から始めて、机に向かってお絵描きや工作をする時間を少しずつ延ばしていきましょう。「学校ではこうするんだね」「かっこいい一年生になれるね」とポジティブな声かけをすることで、ルールを守る楽しさや自信を育むことができます。
また、絵本の読み聞かせは、座って話を聞く集中力を養うのに最適です。短時間でも物語を楽しむ経験を積み重ねてください。
自分のことは自分でする練習
小学校では、着替え、配膳、トイレなど、身の回りのことを自分でする場面が急増します。特にトイレは重要です。和式トイレがまだある学校も多いので、可能であれば練習しておくと安心です。また、着替えや持ち物の管理も、時間を計って楽しみながら練習してみましょう。
さらに、「困ったときにSOSを出す練習」も大切です。「先生、トイレに行きたいです」「鉛筆を忘れました」など、困ったときに言葉で伝えられるようにしておくと、パニックになって教室を飛び出してしまうような事態を防げます。完璧でなくて良いので、一人でやってみる経験を増やし、自信をつけさせましょう。
学校への期待感を高める声かけと連携
親の不安は伝染します。「座っていられるかな」と心配するより、「給食楽しみだね」「新しいお友達ができるかな」とポジティブな言葉をかけ、学校は楽しい場所だというイメージを持たせましょう。また、通学路を一緒に歩いてみるのも良いシミュレーションになります。「ここは車が多いね」「ここにコンビニがあるね」と確認しながら歩くことで、実際の登校イメージが湧き、子どもの不安が和らぎます。
不安が強い場合は、就学時健診などで事前に学校へ相談しておくのも有効です。「初めての場所だと緊張しやすいです」と伝えておくだけで、先生も配慮しやすくなります。入学後も、連絡帳などを活用して、家庭と学校での様子を共有し、連携をとることが大切です。
入学後の親の関わり方
子どもは学校で気を張り詰め、全力を尽くしています。その反動で家ではイライラしたり甘えたりすることがあります。そんなときは、頑張っているんだなと受け止め、家では十分に甘えさせてあげてください。家がエネルギーを充電できる安全基地であれば、翌日また元気に登校できます。
話を聞くときは、「それは嫌だったね」「楽しかったんだね」と、まずは子どもの感情に共感してあげましょう。否定せずに受け止めることで、子どもは「分かってもらえた」と安心します。「おかえり、頑張ったね」と温かく迎えてあげることが、何よりの小1プロブレム対策になります。
小1プロブレムと対策についてのまとめ
小1プロブレムとは、わがままやしつけの問題ではなく、幼稚園から小学校への環境の段差につまずいてしまう現象です。誰にでも起こりうることですが、その背景には、環境の変化や発達の特性、身体的な未発達など、様々な原因が絡み合っています。
多くは時間の経過とともに解決していきますが、もし数ヶ月経っても状況が変わらない、子どもが学校に行きたがらないといった場合は、ひとりで抱え込まず、専門機関に相談してください。
大切なのは、子どもを型にはめることではなく、その子が新しい環境で安心して過ごせるようにサポートすることです。焦らず、子どもの成長を見守りながら、親子で一年生の壁を乗り越えていきましょう。
ステラ幼児教室では、一人ひとりに合わせた個別指導で、学習姿勢づくりや生活動作の練習など、小学校に向けた取り組みも行っています。
また、ステラ個別支援塾では、就学準備コースがあり、就学に向けた読み書きや簡単な演習や、学校生活で必要な生活動作の課題に取り組みます。
就学に向けて不安や心配があるときは、お気軽にご相談ください。












