障害者支援を受けるために必要な療育手帳ですが、その仕組みや基準について深く知る機会はそう多くありません。「子どものために取ったほうがいいのか」「地域によって違うのか」「メリットは何か」と考えている保護者の方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、療育手帳の基本的な役割から判定基準、申請方法、よくある疑問まで、保護者の方が知りたい情報をわかりやすく解説します。
療育手帳とは?知的障害のある人を支援する制度

療育手帳は、知的障害のあるお子さんとそのご家庭が必要な支援を受けやすくするための公的な証明書です。まずは、療育手帳の基礎知識をお伝えします。
基本的な役割
療育手帳の役割は、お子さんが必要とする支援をスムーズに受けられるようにすることです。具体的には、医療費の助成や税金の控除、交通機関の運賃割引など、日常生活のさまざまな場面で活用できます。
手帳を取ることで、「どんな支援が受けられるのか」がはっきりするため、将来の見通しを立てやすくなるでしょう。さらに学校や療育機関との連携もスムーズになり、お子さんが過ごしやすい環境を整えやすくなります。
ただし手帳で受けられる支援内容は、お住まいの自治体や等級によって異なる場合があります。最新情報は各自治体の公式サイトでご確認ください。
愛の手帳との違いは
全国的には「療育手帳」と呼ばれていますが、東京都と横浜市では「愛の手帳」、名古屋市では「愛護手帳」という名称が使われています。
地域で呼び方が異なるのは、療育手帳が法律で全国統一されていないためです。療育手帳は1973年の厚生事務次官通知にもとづいて各自治体が独自に運用しているため、このような違いが生じています。
現在は地域によって療育手帳の呼び方や基準が異なりますが、全国で統一される方向で検討されています。今後の動きにもご注意ください。
ほかの障害者手帳との違い
療育手帳以外にも、「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」といった障害者手帳があります。それぞれ対象となる障害が異なるため、お子さんの状況に合わせて、どの手帳が必要かを判断することが大切です。
各障害者手帳の対象
●身体障害者手帳:肢体不自由、視覚障害、聴覚障害などの身体的な障害
●精神障害者保健福祉手帳:統合失調症、うつ病、双極性障害などの精神疾患
●療育手帳:知的障害と知的障害をともなう発達障害
複数の障害が認められた場合、各手帳から独立したサポートを受けられます。「どちらか一つを選ぶ」のではなく、「両方を活用する」選択肢があるわけです。
結果、医療費の助成、税金の控除、移動支援など、幅広い福祉サービスを利用できるようになります。
このような体制により、お子さん自身の生活の質が向上するのはもちろんのこと、保護者の方の経済的・心理的負担も大きく軽減されるでしょう。
判定基準はどう決まる?自閉症のある子どもも取得できるのか

療育手帳の判定は、知能指数だけでなく日常生活での適応行動も含めて総合的におこなわれます。ここでは、手帳の取得条件について詳しく解説します。
知的障害のある人が取得できる条件
まず最初に、18歳未満のお子さんであれば児童相談所、18歳以上の方であれば知的障害者更生相談所で、知的障害の判定を受ける必要があります。判定は医師の診断だけでなく、心理検査や日常生活についての聞き取りなど、さまざまな角度から実施されます。
「医師の診断書があれば手帳がもらえる」と思われることもありますが、判定機関での検査と面接は必ず受けなければなりません。これはお子さんの知的な発達状況だけでなく、実際の生活での困りごとや必要な支援の内容を把握するためです。
自閉症のある子どもは取得できるのか
自閉スペクトラム症(ASD)のあるお子さんの場合、療育手帳の対象かどうかで取得できる手帳が変わってきます。
●知的障害をともなう場合 → 療育手帳の対象
●知的障害を伴わない場合(IQが75以上など)→ 精神障害者保健福祉手帳の対象
たとえば、IQ50でASDの診断を受けているお子さんは療育手帳を取得できます。一方、IQ80でASDのお子さんは療育手帳の対象外となり、精神障害者保健福祉手帳を検討することになります。
自治体によっては、判定基準や対応方法に柔軟性を持たせているところもあります。まずは、お住まいの地域の窓口に相談してみてください。
診断書だけでは取得できない
療育手帳の判定には原則、児童相談所や知的障害者更生相談所での検査が必要です。医師の診断書だけでは手帳を取得できず、判定機関で知能検査や面接を受けることになります。
判定では、WISC(ウィスク)やWAIS(ウェイス)といった標準的な知能検査が行われます。これらの検査は60~90分ほどかかりますが、お子さんの緊張をほぐすために雑談を交えたり、休憩を挟んだりと、心理的な負担を減らす配慮がなされています。
判定当日は検査だけでなく、医師の診察や保護者の方への聞き取りも含めて全体で3時間ほどかかることが一般的です。
等級区分と判定基準は地域で違う?名古屋市や大阪市の例

療育手帳の等級や判定基準は、お住まいの地域によって大きく異なります。ここでは、各地域の例を挙げて等級区分や判定基準の違いを見ていきます。
療育手帳の等級はどうわかれる?
| 自治体 | 手帳の名称 | 等級区分 | IQ基準 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 名古屋市 | 愛護手帳 | 1度 | ※IQ20以下 | 生活全般に常時介助が必要 |
| 2度 | IQ21〜35 | 社会生活に個別援助が必要 | ||
| 3度 | IQ36〜50 | 何らかの援助で社会生活可能 | ||
| 4度 | IQ51〜75 | 簡単な社会生活の決まりに従える | ||
| 大阪府 | 療育手帳 | A | IQ35以下 | 日常生活に多くの介助が必要 |
| B1 | IQ36〜50 | 声かけやサポートがあると安心 | ||
| B2 | IQ51〜75 | 基本的な生活はできるが判断に困難 | ||
| 横浜市 | 愛の手帳 | A1 | IQ20以下 | 常時個別援助が必要 |
| A2 | IQ21〜35 | 個別援助が必要 | ||
| B1 | IQ36〜50 | 一部にサポートが必要 | ||
| B2 | IQ51〜75 | 新しいことへの対応に困難 | ||
| 東京都 | 愛の手帳 | 1度 | IQ19以下 | 生活全般に常時個別援助が必要 |
| 2度 | IQ20〜34 | 社会生活に個別援助が必要 | ||
| 3度 | IQ35〜49 | 何らかの援助で社会生活可能 | ||
| 4度 | IQ50〜75 | 社会生活の決まりに従って行動できる |
※名古屋市の具体的なIQ基準は愛知県の基準に準じています。詳細は各児童相談所にご確認ください
上の表からわかるように、横浜市と東京都では4つの区分(最重度・重度・中度・軽度相当)にわけられ、大阪府では3つの区分(重度・中度・軽度)に、名古屋市では1度から4度までの4つの区分となっています。
IQの基準も自治体によって少しずつ異なります。たとえば、重度(A)の基準が、大阪府ではIQ35以下、東京都ではIQ34以下(2度)、横浜市ではIQ35以下(A2)と、微妙に違っています。
このような地域差があるため、お住まいの自治体の判定基準を事前に確認しておきましょう。「判定されてから初めて知った」という状況を避けるために、あらかじめ福祉窓口に相談・確認を取ることが大切です。
判定を受ける場所と当日の流れ
療育手帳を申請する際は、まず児童相談所または知的障害者更生相談所で判定を受けてから、お住まいの市区町村の福祉課などで手続きをします。先に判定を受け、その結果をもとに申請する流れです。
判定当日は、心理判定員による知能検査、医師の診察、保護者の方への聞き取りが行われます。その結果は、おおむね2〜4週間で通知されます。
交付が決まった場合、申請した窓口で手帳を受け取れます。結果が出るまでの間、何か心配なことがあれば、窓口に問い合わせてください。
療育手帳を取得するメリットとは?

療育手帳の取得には、経済的な支援から日常生活の負担軽減まで、さまざまなメリットがあります。お子さんとご家庭の暮らしをサポートする具体的な制度を見ていきましょう。
所得税や住民税の障害者控除が受けられる
所得税や住民税の障害者控除が受けられます。控除額は等級によって異なり、重度の等級(A判定など)の場合は特別障害者控除として、より大きな控除額が適用されます。また、相続税の障害者控除もあり、将来お子さんが財産を相続する際の税負担を軽くできるでしょう。
交通機関の運賃割引や公共施設の入場料割引
| 種類 | サービス内容 | 対象条件 | 割引内容 |
|---|---|---|---|
| JR各社 | 普通乗車券 | 第1種:介護者同伴 第2種:単独利用(100km以上) |
5割引 |
| 定期券 | 第1種および介護者 12歳未満の第2種および介護者 ※小児定期乗車券は割引対象外(2025年10月現在) |
鉄道線定期乗車券:5割引 自動車線定期乗車券:3割引 |
|
| 高速道路 | 高速道路料金 | 重度判定(A判定など)のみ ※B判定は対象外 |
5割引 |
| 公共施設 | 動物園 美術館 博物館など |
手帳提示 ※施設により異なる |
無料または割引 |
| 携帯電話 | 月額料金 | 手帳提示 ※キャリアにより異なる |
各社割引プランあり |
療育手帳を持っていれば、交通機関や公共施設、公共サービスの割引を受けられます。
たとえば、JRを利用する場合、療育手帳の「旅客運賃減額」欄に「第1種」または「第2種」の記載があるかどうかで、割引の条件が変わります。
普通乗車券は、第1種の方が介護者の方と一緒に利用する場合に5割引、第2種の方が単独で100km以上利用する場合に5割引です。
定期券の場合、鉄道線と自動車線(JRバス)で割引率が異なります。鉄道線の定期券は5割引、自動車線の定期券は3割引です。対象となるのは第1種の方およびその介護者、または12歳未満の第2種の方およびその介護者で、小児定期券は割引対象外となります。
このように、お子さんの判定区分に合わせた割引を活用してください。
福祉サービスの利用がスムーズに
放課後等デイサービスや短期入所(ショートステイ)、移動支援といったサービスを利用する際、手帳があると手続きがスムーズに進みます。
また、お子さんが就労を考える年齢になったとき、療育手帳があることで就労移行支援事業所や就労継続支援事業所などを利用しやすくなります。これらの事業所では、お子さんの特性に合わせた職業訓練や就職活動のサポート、職場定着支援などを受けられます。
基本的な療育手帳の申請方法と更新について

療育手帳の申請は複雑に思えるかもしれませんが、正しい知識があればスムーズに進められます。詳しく見ていきましょう。
申請に必要な書類と手続き
申請に必要な書類は自治体によって多少異なりますが、通常は以下を用意します。
●療育手帳申請書
●顔写真
●印鑑
●マイナンバーカードまたは通知カード
●医師の診断書
まずはお住まいの市区町村の福祉事務所に相談に行き、申請書を受け取りましょう。窓口で判定機関への紹介手続きをしてもらい、後日、判定の予約を取ることになります。
判定日は平日の日中になることが多いため、お仕事の調整が必要なときは、早めに相談しておくと安心です。
申請時の注意点
申請から手帳の交付までは、通常2〜3か月ほどかかります。判定の予約が混み合っている時期は、さらに時間がかかることもあるため、余裕を持って申請することをおすすめします。
判定当日は、お子さんの日常生活の様子を詳しく聞かれます。普段の困りごとや得意なこと、必要な支援の内容などをあらかじめ整理しておくと、スムーズに答えられるでしょう。なお、母子手帳、療育施設での記録などがあれば持参するとよいでしょう。
更新方法と時期
療育手帳は一度取得したら終わりではなく、2年から5年ごとに更新が必要です。「また判定を受けなければいけないの?」と負担に感じられるかもしれませんが、更新は初回よりもずっと簡単に済みますので、ご安心ください。
幼児期に重度と判定されたお子さんでも、療育や支援によって状態が変わってきます。逆に、成長とともに新たな困りごとが出てくることもあるでしょう。こうした変化を確認するために、定期的な更新が設けられているのです。
更新時期が近づくと自治体から通知が届きますので、その案内に従って手続きを進めましょう。お仕事が忙しい保護者の方でも、それほど負担にならないはずです。
よくある療育手帳に関する質問
最後に、療育手帳について寄せられる質問と回答をまとめました。
療育手帳を持つデメリットはある?
制度上の直接的なデメリットはありませんが、周囲の目や職場への影響を心配される保護者の方もいらっしゃいます。一方、手帳があることで周りの理解が深まり、お子さんに必要な配慮を受けやすくなる面もあります。
療育手帳は一生持ち続けないといけない?
療育手帳は一生持ち続ける必要はなく、更新時の判定で「知的障害に当てはまらない」と判断されれば返納できます。お子さんの成長に合わせて柔軟に対応できる制度です。
引っ越したら手帳はどうなる?
転居先の自治体で住所変更の手続きが必要です。自治体によっては再判定が必要な場合もあるため、引っ越しが決まったら早めに転居先の福祉窓口に相談しましょう。
療育手帳と判定基準についてのまとめ
療育手帳は、知的障害のあるお子さんとそのご家庭を支える大切な制度です。判定基準や等級は地域によって異なりますが、税制面での優遇や福祉サービスの利用など、さまざまな支援を受けやすくなります。
申請から交付までは2〜3か月ほどかかるため、「必要かもしれない」と感じたら、まずはお住まいの市区町村の福祉事務所に相談してみましょう。
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