気がつけば夜の10時を過ぎているのに、子どもはまだおもちゃを手放さない。「もう寝ようね」と声をかけても反応はいまひとつ。ようやく布団に入ってくれたと思ったら、夜中に何度も泣いて起きる。朝になれば、眠そうな顔のまま機嫌も悪く、時間に追われながら保育園へ向かう日々。
こんな毎日、思い当たるご家庭も少なくないかもしれません。子育ての中でも、子どもの睡眠にまつわる悩みは尽きることがなく、対応に迷うこともあるのではないでしょうか。しっかり眠れていないと、集中力が続かなかったり、すぐに気持ちが不安定になったり。そんな様子を見るたびに、体や心の成長への影響が気になることもあるはずです。
この記事では、年齢ごとに必要とされる睡眠時間、国内外の調査が示す実態、睡眠不足によって起こりやすい変化、そして家庭で実践できる工夫について、順を追ってお伝えしていきます。
子どもに十分な睡眠時間が必要な理由

子どもがきちんと眠れているかということは、元気に育つかどうかに直結します。もちろん大人にも質の高い睡眠は欠かせませんが、成長真っ盛りの子どもにとっては、その意味合いがまったく違うのです。
なぜ睡眠がこれほど重視されるのか、その背景から探っていきましょう。
睡眠時間が子どもの成長に与える影響
眠っている間の子どもは、決してただ横になっているわけではありません。骨をしっかりさせたり筋肉を育てたりするホルモンが盛んに働き、さらには病気に負けない体づくりも進んでいるのです。
もう一つ見逃せないのが、脳での作業です。昼間に見たり聞いたりしたたくさんのことを、寝ている間に脳が仕分けして、忘れてはいけないものを記憶の引き出しにしまい込んでいます。この大切な作業がうまくいかないと、楽しかった思い出や学んだことが消えてしまうのです。
眠る時間がずっと足りない状態が続けば、すぐ熱を出したり、覚えたはずのことを忘れてしまったりといったことが起きやすくなります。
深い眠りと脳の発達のつながり
眠りには浅い状態と深い状態があるのをご存じでしょうか。この中で、特に深く眠り込んでいる時間帯こそが、子どもの脳を大きく育てる貴重な時間なのです。深い眠りに入っている最中、脳の中では神経細胞たちが仲間と手をつなぎ、新しいつながりをどんどんつくっています。
こうして神経のネットワークが張り巡らされることで、物事を考える力や体を思い通りに動かす力が伸びていきます。言ってみれば、ぐっすり眠ること自体が、頭の良さや運動神経の基礎を築いているようなものです。
成長ホルモンが出る時間帯と眠りの質
体をぐんぐん成長させる成長ホルモンは、深く眠っているときに一番たくさん出てきます。中でも注目したいのが、夜10時から夜中の2時までの4時間ほどの時間帯です。この時間帯は、ホルモン分泌の最盛期と呼ばれています。
寝るのが遅くなってこのゴールデンタイムに熟睡できずにいると、ホルモンが十分に出てこず、背が伸びにくくなる心配があります。毎晩のように夜更かししていると、体が持っているリズムが狂ってしまい、健康状態にも響いてきますので、なるべく規則的な暮らしを目指したいところです。
日本の子どもはどれくらいの平均睡眠時間?
ところで、今の日本で暮らす子どもたちは、一晩にどれほど眠っているのでしょうか。そして、専門家が「これくらい眠ってほしい」と考える時間とは、どのくらい離れているのでしょうか。いくつかの調査を見ながら確かめてみます。
年齢別に見た子どもが必要な睡眠時間の目安
子どもに求められる睡眠の長さは、大きくなるにつれて変わっていきます。厚生労働省と、アメリカの睡眠医学の専門団体が出している基準を見てみましょう。
1歳から2歳の子どもであれば、24時間のうち11時間から14時間ほど。3歳から5歳になると10時間から13時間程度。小学生の時期では9時間から12時間。そして中学生や高校生であっても、8時間から10時間は眠ってほしいとされています。
幼いうちはたっぷり眠ることが求められ、年を重ねるごとにだんだん短くなっていくというのが、ごく自然な変化です。とはいえ、小学生の段階で9時間は切らないように、中高生でも8時間以上は守りたいところです。
世界の国と比較した子どもの睡眠状況
実を言うと、日本で暮らす子どもたちの平均睡眠時間は、世界から見るとかなり短いのです。17の国と地域を対象にした調査結果によれば、0歳から3歳までの日本の子どもが眠る時間は平均で11時間37分。これは調査対象の中で最も短い数字でした。最も長かったニュージーランドとの間には、1時間42分もの開きがあります。
加えて気になるのが、専門家が勧める睡眠時間と、実際に眠っている時間のギャップです。日本の場合、最大で約2時間も足りていないという実態が浮かび上がっています。ところが、こうした深刻な睡眠不足の現実を「初めて知った」と答える保護者が7割近くもいるというのですから、驚きです。
文科省や厚労省が示す理想の睡眠時間
厚生労働省が2023年に発表した最も新しい睡眠ガイドラインを開いてみると、年齢ごとの具体的な数字が載っています。1歳から2歳なら11時間から14時間、3歳から5歳なら10時間から13時間、小学生なら9時間から12時間、中高生なら8時間から10時間です。この数字は、世界の医学界が共通して認めている内容でもあります。
文部科学省が行った大きな調査からは、面白い傾向が見えてきます。遅くまで起きている子どもほど、ささいなことでカッとなりやすく、朝の時間帯に「なんだか調子が悪い」と感じている割合が高いというのです。特に小学生で夜11時を過ぎてから寝る子どもの場合、20%から40%が朝の体調不良を訴えています。そして、スマホやゲームに長い時間を費やす子どもほど、布団に入る時刻が後ろにずれ込み、結果として眠る時間全体が減っているという関係も、はっきりと表れているのです。
年齢別に見た子どもに必要な睡眠時間の目安

ここからは、それぞれの年齢層について、さらに踏み込んで見ていきます。各時期に応じた睡眠の必要量や、その時期ならではの睡眠の特色についてお伝えします。
1〜2歳児の理想的な睡眠時間は何時間?
1歳から2歳の子どもには、1日の合計で11時間から14時間の睡眠が求められます。夜にしっかり眠るだけでなく、日中に1回か2回、お昼寝の時間を設けるのが一般的です。
毎日だいたい同じ時刻に布団に入れて、朝もほぼ決まった時間に起こしてあげると、体の中に刻まれているリズムが安定してきます。この年齢の子どもは、脳がすさまじいスピードで成長している真っ最中ですから、良質な睡眠をたっぷり確保してあげることが何より大事です。
3〜5歳の子どもに適した睡眠のとり方
3歳から5歳の幼児期には、1日全部で10時間から13時間ほどの睡眠が必要です。この頃になると、お昼寝の回数は減ってきて、午後に1度だけという子が主流になります。
幼稚園や保育園での暮らしが始まると、起きる時間と寝る時間が自然と決まってきます。ただその反面、帰ってきてからの遊びや習い事で活動が増え、ベッドに向かう時刻が遅れがちになることも。できれば夜8時台から9時台のうちに寝かせてあげると、次の朝の目覚めがスムーズです。
小学生の平均睡眠時間と生活習慣の関係
小学生の子どもたちには、9時間から12時間の睡眠が適していると言われますが、現実を見ると8時間から9時間くらいしか眠れていない子がほとんどのようです。学年が上がって高学年になれば、塾や稽古事で帰宅が遅くなり、どうしても眠る時間が削られます。それに加えて、ゲーム機やスマホを触る時間が長引くことで、布団に入る時刻がさらに後ろへずれ込む傾向も見られます。
理想を言えば、夜9時半から10時の間には布団に入って、朝6時半から7時の間に起きるという流れを、小学生のうちから習慣にしておきたいものです。
中学生と高校生に合った睡眠時間の目安
中学生や高校生の段階になると、部活や受験勉強に時間を取られ、睡眠時間がぐっと減ります。本来なら8時間から10時間は眠るべきなのですが、実際には7時間にも満たない日々を送っている子も珍しくありません。
思春期というのは、体つきだけでなく心の面でも激しく揺れ動く時期です。睡眠が不足していると、気持ちのバランスが崩れやすくなることもあります。できる限り夜更かしを控えて、毎日同じようなリズムで過ごすことを大切にしましょう。
子どもの睡眠時間が短いと起こること

睡眠が充分でない日々が続くと、子どもの様子にじわじわと変化が現れてきます。最初は気づきにくい小さなサインかもしれませんが、そのまま見過ごしてしまうと、普段の生活に大きな支障をきたすこともあるため、早い段階で察知してあげたいものです。
睡眠時間が短い子どもに見られる変化
眠りが足りていない子どもには、いくつかの共通した様子が見て取れます。
起きる時間になっても布団の中でぐずぐずしていて、何度呼びかけても返事がない。日中の活動では目の焦点が定まらず、何かに打ち込むことができない。ほんのささいなことで怒りだしたり、わんわん泣きだしたりする。朝ごはんの時間になっても食べようとせず、食欲が明らかに落ちている。ちょっとしたことで熱を出したり咳が出たりと、体調を崩す回数が増えている。
こうしたサインがいくつも重なって見えたら、睡眠時間が足りていない可能性を考えてみてください。たんなる疲れや気分の浮き沈みと片付けず、暮らし全体を点検する機会として捉えていただきたいのです。
短い睡眠時間が心と体に与える悪影響
慢性的に睡眠が足りない状況は、子どもの健やかな育ちを妨げる恐れがあります。
体の面から見ると、眠っている間にたくさん出るはずの成長ホルモンがうまく働かず、背の伸びが悪くなるという指摘があります。また、病気と戦う力も弱まるため、風邪をひく回数が増えたり、なんとなく元気がない日が続いたりします。
心の面では、せっかく覚えたことが頭に定着しにくくなったり、何かに取り組む意欲が湧いてこなくなったりといった変化が現れます。感情をうまくコントロールできず、友達との付き合いがぎくしゃくしたり、学校へ足が向かなくなったりするケースも多数あるようです。
脳の育ちという観点で見ても影響は深刻で、幼い時期に十分な睡眠を取れなかった子どもは、その後の知能の発達に遅れが出やすいという研究データも発表されています。
昼寝は子どもにとって必要か?

小さな子どもの場合、日中のお昼寝も睡眠全体の重要な一部分です。何歳くらいまでお昼寝が要るのか、また注意しておきたいポイントについて確認しておきましょう。
昼寝が必要な年齢の目安とその理由
おおよそ3歳くらいまでの子どもには、お昼寝の時間を設けることが推奨されています。1歳から2歳にかけては1日に1回か2回、3歳に近づくと1回程度に落ち着いてくるのが普通の流れです。
午前中いっぱい元気に動き回った後、お昼寝で脳と体を休ませてあげることで、午後からもまた活動するエネルギーが戻ってきます。夜の睡眠だけでは必要量を満たせない年齢層では、日中のお昼寝が発達を支える大切な働きをしているわけです。
4歳を超えてくると、お昼寝をとらなくても夕方まで元気いっぱいに過ごせる子が増えてきます。ただし育ち方のペースには一人ひとり違いがありますので、子どもの様子をじっくり観察しながら判断していくことが肝心です。
昼寝が長すぎると夜の睡眠に影響も?
日中のお昼寝は確かに大事なのですが、時間が長引きすぎたり、夕方近い時間まで眠り続けたりすると、かえって夜の寝つきを悪くしてしまいます。
1歳から2歳なら1回につき1時間から2時間くらい、3歳前後なら1時間以内に収めるのがちょうどよいとされています。午後3時を過ぎてからのお昼寝は、夜の睡眠サイクルを乱す元になりやすいので、それより早い時間に終わらせることを意識しましょう。
お昼寝を切り上げる時刻をあらかじめ決めておけば、夜の睡眠リズムも整いやすくなります。
子どもの睡眠時間をしっかり確保するための方法

それでは最後に、ご家庭ですぐに始められる工夫をいくつかご紹介します。どれも特別な道具や準備はいりませんので、やりやすそうなものから取り入れてみてください。
寝る時間を整えるコツと生活習慣づくり
良質な睡眠を手に入れるには、毎日の暮らしに一定のリズムを刻むことが何より大切です。起きる時刻と眠りにつく時刻を、できるだけ揃えるように意識してみましょう。
朝目が覚めたら、真っ先にカーテンを開けて太陽の光を室内に招き入れます。こうすることで、体の中に備わっている時計がリセットされると言われています。朝の食事をきちんと食べることも、体のリズムを保つために欠かせない要素です。
日中には、外で遊んだり体を思い切り動かす時間を作ると、夜になって自然に眠気が訪れやすくなります。ただし、寝る直前に激しく体を動かすと、逆に目が冴えてしまうため、運動は夕方くらいまでに済ませておくのがおすすめです。
スマホやタブレット、テレビの画面から放たれる光には、脳を起こす性質があります。眠りにつく1時間ないし2時間前には、こうした機器に触れるのをやめるようにすると、すんなり眠りに入れます。
寝室環境と入浴時間の工夫で快眠へ
気持ちよく眠るためには、寝る場所の環境づくりも見逃せません。部屋の明かりは落として、周りの音もできるだけ小さく保ちましょう。室内の気温や湿り気も、暑くもなく寒くもない快適な状態に調整することが大事です。お布団や枕についても、子どもの体格に合った柔らかさや大きさのものを選んであげてください。
お風呂に入る時間帯も、眠りの深さに関わってきます。お湯で温まって上がった体温が、じわじわと下がっていくタイミングで、自然な眠気が湧いてくるからです。布団に入る1時間ないし2時間前までにお風呂を終えておくのが理想的でしょう。
寝る前のひとときには、絵本を読んであげたり、優しい音楽を流したりして、穏やかな空気をつくってあげるのもよいでしょう。こうした静かな時間が、安らかな眠りへの橋渡しをしてくれます。
【まとめ】子どもの毎日を支えるのは夜の睡眠時間
子どもにとって睡眠とは、心と体の成長を根っこから支える土台そのものです。それぞれの年齢に見合った十分な睡眠が確保されているかどうかで、育ちのスピードや日々の暮らしの落ち着き具合が大きく左右されます。
日本国内では、他の国々と比べて子どもたちの平均睡眠時間が短い状況が長く続いており、慢性的な睡眠不足が社会の課題として取り上げられています。睡眠が不十分な状態が続けば、体格の成長、学習に向かう集中力、気持ちの安定性など、あらゆる面に悪い影響が及ぶ危険性があります。
まず第一歩として、日々の暮らしぶりを振り返ってみたり、眠りにつく前の環境を見直してみたりと、身の回りのできるところから実践可能な工夫を積み重ねていくことが肝心です。
何か気になることがあれば、ひとりで抱え込むことなく、周りの方々に相談してみることをおすすめします。保護者の方だけで悩みを背負うのではなく、専門家の知恵を借りることも、子どもの健やかな眠りを守るための有効な手立てのひとつです。
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