「うちの子は怖がりで、新しいことに挑戦できない」と悩む保護者の方は少なくありません。子どもの怖がりには性格だけでなく、音や光への感覚過敏や発達特性が関係している場合もあります。
この記事では、発達支援の専門家の視点から、子どもが怖がる心理的なメカニズムと、その対応方法をわかりやすく解説します。ついイライラしてしまうときの気持ちの整え方についても触れていますので、ぜひ参考にしてください。
子どもが怖がる原因とは?

子どもが「怖い」と感じる気持ちは、成長の過程で自然に芽生えるものです。発達心理学の観点から見ると、恐怖は危険から身を守るための本能的な反応であり、人間が生き延びるために必要不可欠な機能といえます。
一般的に、子どもが明確に恐怖を感じられるようになるのは3歳頃からです。この時期に想像力や記憶力が発達し、「暗い場所には怖いものがいるかもしれない」といった認識が生まれてきます。
ここでは、子どもが怖がる主な原因を見ていきましょう。
トラウマや生まれ持った気質が怖がりに影響
子どもが怖がる背景には、過去のトラウマが影響していることがあります。心理学では、怖い体験と特定の刺激が結びつく「恐怖条件づけ」と呼ばれる反応が知られています。3歳ごろから記憶力が育つため、その印象が残りやすくなります。
また、子どもは直接体験がなくても、誰かが怖がる様子を見たり、大人の言葉から「怖さ」を学ぶこともあります。
加えて、生まれ持った気質も見逃せません。たとえば、慎重で不安を感じやすい「行動抑制型」の子どもは、新しい環境に警戒心を持ちやすく、人見知りも強めです。これはその子の個性であり、決して悪いことではありません。
音や光への感覚過敏が原因になることも
怖がりの背景には、感覚過敏が関係していることがあります。 感覚過敏とは、音や光、触感などの刺激を人より強く感じてしまう状態です。 脳の感覚調整がうまく働かないと、本来気にならない刺激が苦痛や恐怖に変わってしまいます。
たとえば、聴覚過敏の子どもは掃除機やドライヤーの音を怖がり、視覚過敏の子は蛍光灯のちらつきに不快感を示すことがあります。 触覚過敏があると、特定の服の素材を嫌がることも。
花火大会の音や映画館の大音量が耐えがたい子もいます。 それを「わがまま」や「大げさ」と受け取るのではなく、本人にとっては本当に苦しい体験なのだと理解することが、周囲の大人に求められる大切な配慮です。
怖がりと発達障害は関係があるのか
怖がりと発達障害が関係していることもありますが、すべての怖がりな子が発達障害というわけではありません。
発達障害のある子どもには、感覚が過敏だったり、先の見通しが立たないことに強い不安を感じやすかったりする特徴があります。また、一度怖い思いをすると、それに似た状況すべてを怖がるようになることも少なくありません。
泣き叫んだり、どうしても落ち着けないような強い反応が見られる場合は、発達の特性が関係している可能性もあります。 気になるようであれば、専門家に相談してみるのもおすすめです。
子どもが怖がりやすいものとその特徴

子どもが怖がりやすいものには、ある程度の傾向が見られます。 たとえば、ヘビや高い場所、暗いところなど、多くの子どもが共通して怖いと感じやすいものがあります。
こうした反応は、私たちが長い時間をかけて身につけてきた、生き延びるための本能と関係していると考えられています。 昔の人にとって危険だったものに対して、私たちの心は今も敏感に反応しやすくできているのかもしれません。
生物系や環境系など怖がりやすいカテゴリー
子どもが怖がりやすいものは、大きく3つのタイプに分けられます。
まず1つ目は「生き物に関するもの」。ヘビやクモ、虫などがこれに当たります。人類の祖先が危険を避けるために、こうした生き物に本能的な恐怖を感じやすくなったと言われています。
2つ目は「環境に関するもの」。高い場所や暗闇、雷などが代表的です。これもケガや事故を避けるために備わった、自然な反応と考えられています。
3つ目は「けがや痛みに関するもの」。注射や血、ケガなどに対する怖さです。体を守るための大切な感覚です。
怖がることは誰にでもある自然なことですが、もし日常生活に強い影響が出ているようなら、専門家のサポートを受けるのも一つの方法です。
大きな音やおばけなど子どもが怖がる対象
子どもがよく怖がるものに「大きな音」と「おばけ」があります。
大きな音への恐怖は、生まれてすぐの赤ちゃんにも見られる本能的な反応です。とくに花火や雷、掃除機の音のように、いつ鳴るかわからない音は、子どもにとってとても怖く感じられます。
おばけが怖くなるのは、想像力が育ちはじめる3歳ごろから。まだ現実と空想の境目があいまいな時期なので、テレビや絵本に出てくるおばけを「本当にいる」と信じてしまうことも。想像力が豊かな子ほど、おばけの世界をリアルに感じやすい傾向があります。
怖がり方から見える発達障害

発達障害のある子どもは、その特性から怖がる気持ちが強く出ることがあります。どのような怖がり方をするかは、障害のタイプによって少しずつ違いがあります。
ここでは、それぞれの特徴と「怖がり」との関係について見ていきましょう。
感覚過敏がもたらす怖がりの特徴
発達障害のある子どもには、感覚過敏を持つ子が多く見られます。なかでも自閉スペクトラム症の子どもは、音や光などに過敏に反応しやすい傾向があります。
たとえば、運動会のピストル音や校内放送、教室のざわめきなど、日常の何気ない音が強い恐怖につながってしまうことも。聴覚過敏のある子にとって、学校は「怖い音だらけ」の場所になりかねません。
こうした怖がり方は、決してわがままでも甘えでもありません。たとえるなら、黒板を爪でひっかく音を一日に何度も聞かされているようなもの。子どもの感じ方を否定せず、「その子にとっての現実」として受け止めることが大切です。
自閉スペクトラム症と極度の怖がり
自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもは、「先が読めないこと」や「初めてのこと」に強い不安を感じやすく、それが怖がりとして表れることがあります。
これは、「いつも通りであることに安心を感じ、変化や予測できない状況を苦手とする」というASDの特性と深く関係しています。
たとえば、急な予定変更や、日常の流れが少し崩れるだけでも、不安からパニックにつながることがあります。
初めての場所・人・活動など、「知らないこと」すべてが不安や恐怖の対象になりやすいのです。
また、ASDの子どもは、一度の怖い経験を他の場面にも結びつけてしまうことがあり、公園で犬に吠えられた経験から、すべての犬や公園を怖がるようになることもあります。
こうした怖がりには、「怖がりすぎ」と否定するのではなく、子どもの不安の背景にある理由を理解することが大切です。
ADHDと怖がりの関係
ADHD(注意欠如多動症)のある子どもも、独特の怖がり方をすることがあります。
注意が散りやすく、まわりの刺激に敏感なため、突然の音や出来事にびっくりしやすく、強い不安や恐怖につながることがあります。また、衝動的な反応が出やすいため、怖さを感じたときに感情をうまく抑えられず、そのまま強く表れてしまうことも多いです。
こうした子どもには、できるだけ落ち着いた環境を用意し、「もうすぐ大きな音がするよ」「次はこれをやるよ」といった見通しを前もって伝えることが、不安をやわらげる助けになります。
怖がりな子どもに親ができる対応

怖がりな子どもには、安心感を育てるような関わり方が大切です。適切な対応をすることで、恐怖心がやわらぎ、「怖くても大丈夫」と感じられる力が育っていきます。
逆に、無理に怖がらせたり、不安を否定したりすると、恐怖がかえって強まってしまうこともあります。
ここでは、発達支援の現場でも効果が認められている、実践的な対応方法をご紹介します。
怖い気持ちに共感する
怖がっている子どもに対して、まず大切なのは「その気持ちをわかってあげること」です。
つい「大丈夫」「怖くないよ」と言ってしまいがちですが、子どもにとっては本当に怖いのです。気持ちを否定されると、「わかってもらえない」と感じて、余計に不安が強くなることもあります。
「怖かったんだね」「怖い気持ち、わかるよ」と声をかけ、そっと抱きしめてあげるだけで、子どもは安心します。
反対に、「そんなことで泣かないの」「男の子でしょ」「恥ずかしいよ」といった言葉は、怖がること自体を否定してしまうので避けましょう。
スキンシップで安心感を育てる
怖がりな子どもには、スキンシップがとても効果的です。触れ合うことで「オキシトシン(愛情ホルモン)」が分泌され、安心感が生まれやすくなります。
実際、親と手をつないだり抱きしめられたりしているときは、子どもが恐怖を感じにくくなることがわかっています。
花火や病院など、怖がる場面が予想できるときには、そっと手を握るだけでも違います。ふだんからのスキンシップも、「ママ(パパ)がいれば大丈夫」という自信を育て、怖さを乗り越える力につながっていきます。
子どもを怖がらせる伝え方をしない
「悪いことをしたら鬼が来るよ」「言うことを聞かない子は置いていくよ」などといった表現を、つい口にしてしまうこともあるかもしれません。でも、こうした“怖がらせる伝え方”は、子どもの心に不安を残してしまうことがあります。
特に3〜6歳ごろの子どもは、現実と空想の区別があいまいな時期。「鬼が来る」と言われたら、それを本気で信じてしまうのです。
たしかに恐怖でコントロールすれば、その場では言うことを聞くかもしれません。でもそれは、一時的な効果にすぎません。長い目で見れば、怖がりが強まったり、親への信頼や自己肯定感が傷ついてしまうリスクもあります。
それよりも、「できてえらいね」「頑張ったね」と、いいところを認める声かけを心がけるほうが、子どもの心を安定させ、自信にもつながっていきます。
怖がりな子どもへの対応を具体例でみる

ここでは、発達支援の現場で実際にあった対応事例をご紹介します。
「うちの子に似てるかも」と感じるものがあれば、ぜひご家庭での関わりのヒントにしてみてください。
特定の人を怖がる子への対応事例
父親以外の男性を怖がっていた、4歳の女の子の事例です。
男性の先生が近づくと、担任の先生の後ろに隠れてしまうほど強い反応がありました。
そこで、信頼していた女性担任が間に入り、「○○先生はサッカーが得意なんだって」「イチゴが好きなんだよ」など、親しみの持てる情報を少しずつ伝えていきました。
無理に関わらせることはせず、まずは離れた場所から、楽しそうに遊んでいる姿を見せるところからスタート。
担任の言葉を通して少しずつ興味を持ち、卒園するころには、笑顔で一緒に遊べるようになっていました。
虫や生き物を怖がる子への対応事例
アリを見るだけで泣き叫び、外遊びを嫌がっていた5歳の男の子の事例です。
このときは、「段階的に慣れていく」方法を取り入れました。まずはアリの絵本から始め、次に虫かごに1匹入れたアリを、少し離れた場所から観察。逃げ出さないとわかると、だんだん近づけるようになりました。
さらに、アリの生活を描いた紙芝居を読み、「怖い虫」から「一生懸命な生き物」へとイメージを少しずつ変えていきました。
2ヶ月後には、外で「あ、アリさんいるね」と落ち着いて言えるようになり、外遊びも楽しめるようになりました。
音や光を怖がる子への対応事例
感覚過敏のある6歳の男の子(ASDの診断あり)の事例です。運動会のピストル音などを極端に怖がり、行事に参加するのが難しい状態でした。
こうした場合は、無理に慣れさせようとするよりも「環境を整える」ことが大切です。まずイヤーマフを使って音を和らげる体験をしてもらい、安心感を持てるようにしました。
また、「今日は○時に大きな音が鳴るよ」と事前に伝えて、心の準備ができるようサポート。さらに、「怖くなったらこの部屋に行っていいよ」と“逃げ場”を用意することで、最後まで参加できることが増えていきました。
感覚過敏は「治す」ものではなく、「その子なりのやり方でうまく付き合っていく」ことが大切です。
初めての人や場所を怖がる子への対応事例
初めて行く場所や知らない人との関わりを強く怖がる、5歳の男の子の事例です。ASDの診断はないものの、見通しが立たない状況に不安を感じやすいタイプでした。
新しい習い事の体験会をとても楽しみにしていたのに、当日になって「行きたくない」と泣き出し、玄関から動けなくなってしまいました。
このときは、体験会の前に写真付きの案内資料を見せ、「ここに行くよ」「先生はこんな人だよ」と具体的なイメージを共有しました。また、実際に出かける前に、近くまで行って外観だけを見せたり、保護者が「先に見てくるね」と中の様子を伝えるなど、少しずつ安心できる材料を増やしていきました。
数回に分けてアプローチすることで、本人の不安が薄れ、最終的には中に入って先生にあいさつし、短時間ですが参加できるようになりました。
ステラ幼児教室では、発達が気になる子どもへの支援を行っています。お気軽にご相談ください。
子どもの怖がりを克服する方法

怖がりを克服するには、焦らずゆっくり取り組むことが大切です。無理に慣れさせようとすると、逆に不安や恐怖を強めてしまうこともあります。
子どものペースに合わせて見守る
怖がりの克服には、子どものペースに寄り添うことが何より大切です。無理に怖いものに触れさせると、逆に恐怖心が強まってしまうこともあります。
「この子はこういう子なんだ」とまず受け止め、本人が「やってみよう」と思えるまで待つ姿勢が、結果的に近道になります。
子どもは日々成長しています。今は怖がっていても、数年後には平気になっていることも。あたたかく見守りながら、「きっと大丈夫」と信じてあげてください。
安心できる環境を整える
子どもが安心して過ごせる環境をつくることは、怖がり克服の土台になります。家庭が「安心できる場所」になっていることで、外の世界の不安にも向き合いやすくなります。
たとえば、大きな音が苦手なら静かなスペースを用意したり、暗闇が怖いなら常夜灯をつけたりと、できる範囲で調整してみましょう。
また、「怖いことがあったらいつでも話していいよ」と声をかけておくと、気持ちを言葉にする力が育ちます。その積み重ねが、少しずつ“怖さに立ち向かう力”になっていきます。
怖がりな子どもにイライラしたときの対処法
子どもが何度も怖がる様子を見ていると、「なんでこんなことで…」「他の子は平気なのに」と、ついイライラしてしまうこともあります。それはごく自然な感情です。
でも、そのイライラがそのまま子どもに伝わると、「自分のせいで親を困らせている」と感じてしまい、不安がさらに強くなることがあります。
ここでは、そのイライラに対処する方法をご紹介します。
子どもの優れた点に目を向ける
怖がりな子どもには、やさしさや想像力、慎重さといった素敵な一面があります。感情に敏感だからこそ怖いと感じるのは、決して悪いことではありません。
怖がりではなく、思いやりがあるとか、慎重で危険に気づける子だと考えるだけで、少し気持ちが軽くなるかもしれません。
そして、親御さん自身もがんばりすぎないことが大切です。疲れたときは、ゆっくり休んだり、周りの力を借りたりして、自分の心にも目を向けてください。
【まとめ】怖がりな子どもに寄り添い成長を見守ろう
子どもの怖がりには、トラウマや気質、感覚過敏、発達の特性など、さまざまな原因と背景があります。大切なのは、気持ちを否定せずに受け止め、安心できる環境で少しずつ成長を見守ることです。
怖がりな子どもは、やさしさや想像力を持った感受性豊かな存在でもあります。その特性を強みとして認め、丁寧に育てていくことが親としての大きなサポートになります。
日常生活に支障を感じる場合は、専門家に相談することもひとつの選択です。
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