子どもが言うことを聞かない原因と親の悩み

何度言っても片付けない、着替えない、約束を守らない。毎日のように繰り返される子どもとの攻防に、心身ともに疲れ果ててしまっている保護者の方は少なくありません。
どうしてうちの子はこんなに聞き分けがないのだろう。私の育て方が間違っているのではないか。
言うことを聞かない我が子を前に、イライラが募りつい声を荒らげてしまう。そして寝顔を見ながら自己嫌悪に陥る。そんな苦しいループから抜け出すためには、まず現状を客観的に捉え直すことが大切です。子どもが言うことを聞かないのには、必ず何らかの理由があります。それは単なるわがままや性格の問題だけではなく、成長の過程で必要なステップであったり、あるいは本人の特性による困難さが隠れていたりすることもあります。
なぜ子どもは言うことを聞かないのか

親から見れば反抗している、あるいは無視していると感じる行動も、子どもの視点に立つと全く違った景色が見えてきます。子どもなりの理由を知ることで、対処法が見つかるかもしれません。
何かに熱中していて聞こえていない
子どもは、興味のあることに集中すると周りが見えなくなる傾向があります。テレビを見ているとき、おもちゃで遊んでいるとき、本を読んでいるときなど、大人が想像する以上に深い集中状態に入っています。このとき、親がお風呂や食事の声かけをしても、無視しているのではなく、物理的にその声が耳に入っていない、あるいは意識に届いていない状態であることが多いのです。これを選択的注意といい、一つのことに集中するあまり、他の情報がシャットアウトされてしまう現象です。
親の指示が長すぎて理解できない
おもちゃを片付けて、手を洗って、テーブルの上を拭いてから座ってね。大人は効率を考えて一度に複数の指示を出してしまいがちです。しかし、子どもの脳はまだ発達段階にあり、ワーキングメモリと呼ばれる一時的に情報を記憶して処理する能力の容量が、大人ほど大きくありません。一度にたくさんのことを言われると、最初の指示を忘れてしまったり、情報量が多すぎてパニックになったりして、結果として何もできなくなってしまいます。言うことを聞かないのではなく、言われたことが処理しきれずにフリーズしている状態かもしれません。
かまってほしくてわざと反抗する
忙しい夕方、親が家事やスマホに夢中になっているときに限って、子どもが悪ふざけをしたり、禁止されていることをしたりすることがあります。これは試し行動や注意獲得行動と呼ばれるもので、親の関心を自分に向けたいという欲求の表れです。良いことをして褒められるよりも、悪いことをして叱られる方が、手っ取り早く親の注目を集められることを子どもは本能的に知っています。怒られてでもいいから自分を見てほしい、という切ないサインである場合も多いのです。
言うことを聞かない背景にある病気や障害

単なる聞き分けのなさだと思っていた行動の裏に、医学的なサポートが必要な病気や障害が隠れているケースもあります。
聴覚や耳の病気の可能性
名前を呼んでも振り向かない、テレビの音が異常に大きい、聞き返しが多いといった場合、中耳炎などの耳の病気や、難聴の可能性があります。特に滲出性中耳炎は痛みや発熱を伴わないことが多く、気づかないうちに聞こえが悪くなっていることがあります。無視していると叱る前に、まずは物理的に聞こえているかどうか、耳鼻科で聴力検査を受けてみることも一つの選択肢です。
ADHDの不注意や多動性
ADHD(注意欠如多動症)の特性がある場合、脳の機能的な問題から言うことを聞くことが難しくなります。不注意の特性が強いと、話を聞こうとしても他の刺激(窓の外の音や目に入ったおもちゃなど)に気が逸れてしまい、指示を聞き漏らしてしまいます。多動性・衝動性の特性が強いと、頭で考えるよりも先に体が動いてしまい、静かにしていなければならない場面でも走り回ったり、順番を待てずに割り込んでしまったりします。これは本人の努力不足ではなく、脳の特性によるものです。
ASDのこだわりや聞こえにくさ
ASD(自閉スペクトラム症)の特性がある場合、独特のこだわりや感覚の偏りが影響していることがあります。例えば、予定の変更が極端に苦手で、急に買い物に行くよと言われても気持ちの切り替えができず、パニックになって動けなくなることがあります。また、聴覚情報処理障害(APD)などを併発している場合、聴力に問題はなくても、雑音の中で人の声を聞き取ることが困難で、指示が正しく伝わっていないこともあります。言葉の裏を読むことが苦手なため、ちゃんとしてといった抽象的な指示が理解できず、行動に移せないケースもあります。
反抗挑戦性障害などの精神疾患
反抗期とは明らかに異なるレベルで、大人に対して拒絶的、反抗的な態度が6ヶ月以上続き、社会生活に支障をきたす場合、反抗挑戦性障害(ODD)の可能性があります。頻繁に癇癪を起こす、大人と口論する、わざと他人を苛立たせる、自分のミスを他人のせいにするなどの特徴があります。ADHDなどの発達障害と併存していることも多く、家庭内だけで解決しようとせず、医療機関などの専門的な介入が必要です。
ステラ幼児教室・個別支援塾では、発達障害や発達に遅れのある子どもをマンツーマンの授業でサポートしています。
子どもの発達や行動面が気になるときは、お気軽にご相談ください。
小学生の子ども特有の難しさ

幼児期とは違い、小学生になると学校という社会での生活が始まり、心も複雑に成長していきます。
小学生に見られる中間反抗期とギャングエイジ
小学校の中学年から高学年にかけては、中間反抗期やギャングエイジと呼ばれる時期に入ります。親よりも友達関係を重視するようになり、仲間同士のルールや結びつきが強くなります。親からの干渉をうっとうしく感じ、うるさい、わかっているといった口答えが増えるのは、親から精神的に自立しようとしている証拠でもあります。この時期の反抗は、成長の証としてある程度受け流しつつ、命に関わることや人として大切なルールについては毅然と伝えるバランスが求められます。
学校生活での疲れと家での反動
小学生のなかには、学校では先生の言うことをよく聞き、友達とも仲良くしている優等生タイプの子が、家では全く言うことを聞かなくなるケースがあります。これは、学校という集団生活の中で気を張り詰め、良い子を演じるためにエネルギーを使い果たしているためです。家は唯一、本来の自分を出せる安心できる場所です。家でのわがままや反抗は、外で頑張っている反動であり、甘えの裏返しとも言えます。外ではできているのだから家でもちゃんとしなさいと追い詰めるのではなく、家ではエネルギーを充電させてあげる寛容さも必要です。
イライラしないための具体的な対処法

子どもの行動を変えるには時間がかかりますが、親の受け止め方や対応を変えることは、今日からでも可能です。イライラを爆発させないための工夫と対処法を紹介します。
視線や身体を向けて短く伝える
キッチンから背中越しに片付けなさいと叫んでも、子どもには届きません。子どもに指示を出すときは、必ず子どもの近くに行き、視線の高さを合わせ、肩に触れるなどして注意をこちらに向けてから話しましょう。そして、伝える言葉は短く、具体的が鉄則です。「片付けて」ではなく「ブロックを箱に入れてね」、「早くして」ではなく「時計の針が6になったら出発だよ」という言い方がよいでしょう。
また、子どもが「する」か「しない」でしか答えられない聞き方をすると、子どもは「しない」と否定的に答えてしまいがちなので、注意しましょう。例えば、「お風呂に入る?」という聞き方ではなく、「お風呂の時間だよ」と断定的に伝えたり、「お風呂に入るか歯磨きをするかどっちをする?」と子どもに選択させたりすることで、子どもの意思で切り替えて次の行動に移しやすくなります。
環境を整えて刺激を減らす
宿題をしなさいと言う前に、テレビがついていたり、机の上におもちゃが散らかったりしていないか確認しましょう。子どもが言うことを聞かない原因の多くは、環境にあります。集中を削ぐものを視界から隠す、着替えを出しやすい場所に置く、支度リストを目につく場所に貼るなど、ガミガミ言わなくても自然と動けるような環境作りをすることが、親のストレスを減らす近道です。
さらに、時間の感覚をつかむのが苦手な子には、あとどれくらい遊べるかが色で分かるタイムタイマーなどの視覚支援グッズも有効です。早くしてと急かすよりも、時計を見せるだけで伝わるようになります。
肯定的な言葉で褒める
走らないでと言われると、かえって走るイメージが頭に残ってしまいます。歩こうねと肯定的な言葉で伝える方が効果的です。また、言うことを聞いたとき、当たり前のことができたときにこそ、見逃さずに褒めることが重要です。静かに待てたね、靴を揃えてくれてありがとう。親から肯定的な注目を浴びることで、子どもは良いことをすると嬉しいと感じ、望ましい行動が増えていきます。これを好循環に変えていくのです。
遊び感覚で「聞く力」をトレーニングする
真面目に聞きなさいと叱るだけでなく、遊びの中で聞く力を育てるのも一つの方法です。例えば、船長さんの命令というゲームは、「船長さんの命令です」という言葉がついているときだけ指示を聞くので、指示をよく聞いて瞬時に判断することが必要なゲームです。赤白の旗を上下下げする旗揚げゲームや、買い物リストを覚える伝言ゲームなども有効です。聞くことを楽しいコミュニケーションの一部にすることで、子どもは構えることなく自然と人の声に意識を向ける練習ができます。
親自身のアンガーマネジメントと仲直りの儀式
どれだけ工夫しても、イライラして怒鳴ってしまうことはあります。そんなときは、怒りのピークと言われる6秒をやり過ごす、物理的に距離を置くといったアンガーマネジメントを取り入れましょう。
そして大切なのは、叱った後のフォローです。お互いに落ち着いたら、さっきは言いすぎてごめんね、〇〇のことが大好きだから心配だったんだよと伝え、ハグをするなどの仲直りの儀式を決めておきましょう。寝る前に大好きだよと伝えて一日を終えることで、子どもの自己肯定感は守られ、親自身の罪悪感もリセットできます。完璧な親を目指さず、失敗したら修復すれば良いのです。
専門機関への相談とサポート

家庭での工夫だけでは改善が見られず、親子ともに辛い状況が続く場合は、外部の専門機関を頼りましょう。
専門家に相談する目安
以下のような状況があれば、相談を検討するタイミングかもしれません。
・かんしゃくや他害(叩く、蹴る)が激しく、静止できない。
・家だけでなく、園や学校でもトラブルが続いている。
・親が子どもの声を聞くだけで動悸がするなど、心身に不調が出ている。
・虐待してしまいそうだと感じる。
これらは親の努力不足ではありません。専門家のアドバイスを受けることで、子どもの特性に合った関わり方や対処法が見えてきます。
発達障害やグレーゾーンの学習支援
ADHDやASDなどの発達障害、またはその傾向があるグレーゾーンの子どもの場合、一般的なしつけや学習方法ではうまくいかないことがあります。ステラ幼児教室のような児童発達支援やステラ個別支援塾のような専門の学習支援機関では、子どもの認知特性(見て理解するのが得意か、聞いて理解するのが得意かなど)に合わせた指導を行っています。できないと叱られ続けて自信を失う前に、適切な療育や学習支援を受けることで、できたという成功体験を積み重ね、自己肯定感を育むことができます。
子どもが言うことを聞かない時のまとめ
子どもが言うことを聞かない背景には、年齢特有の成長過程、環境要因、親子のコミュニケーションのすれ違い、そして発達障害の特性など、様々な要因が絡み合っています。大切なのは、子どもを力でコントロールしようとするのではなく、なぜ聞けないのかという背景に目を向けることです。
イライラしてしまう自分を責める必要はありません。親も子も、試行錯誤しながら成長している途中です。ひとりで抱え込まず、専門家や周囲のサポートをうまく活用しながら、我が子に合った伝わる方法を少しずつ見つけていきましょう。
ステラ幼児教室・個別支援塾では、発達障害や発達に遅れのある子どもをマンツーマンの授業でサポートしています。
子どもの発達や行動面が気になるときは、お気軽にご相談ください。












