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感覚統合療法とは?遊びの実践例と学びたい人向けの資格を解説

2025.11.27
  • 発達障害の療法
  • 支援方法・家庭での過ごし方

感覚統合療法とは遊びで発達を促すアプローチ

うちの子、特定の音や服の素材を極端に嫌がります。他の子より、身体の使い方がぎこちない気がして心配です。

教育現場やご家庭で、こうした子どもの姿に戸惑いを覚える方は少なくありません。一見するとわがままや落ち着きがないと誤解されがちな行動の背景には、感覚統合という脳の機能のつまずきが隠れている場合があります。

近年、療育の現場で注目されている感覚統合療法とは、こうした困難さを、机上の訓練ではなく、楽しい遊びを通して改善していくアプローチです。

この記事では、感覚統合とはどのような脳の働きなのか、何歳まで対象なのか、感覚統合の効果や具体的な遊びの実践例を解説します。また、ご自身の仕事や子育てに役立てるために、専門知識をより深く学びたい方の資格や学習方法についても詳しく紹介します。

感覚統合とは脳内で感覚を整理する仕組み

私たちがスムーズに日常生活を送るためには、脳に入ってくる膨大な感覚情報を瞬時に整理し、統合する必要があります。この脳の働きを感覚統合と呼びます。

私たちが使っているさまざまな感覚

感覚統合療法とは、以下の3つの基礎感覚が特に重要であると考えられています。これらは、子どもの身体の動かし方や、感情の安定に深く関わります。

1.触覚(皮膚の感覚)
最も基本的な感覚です。触覚には2つの役割があります。危険を察知する役割(防衛反応)と、物の形や素材を識別する役割(識別能力)があり、感情や対人関係の基盤となります。

2.固有受容覚(筋肉や関節の感覚)
自分の手足が今どこにあるか、どのくらい力が入っているかを無意識に感じ取る感覚です。これが適切に働くことで、力の入れ具合をコントロールしたり、身体をスムーズに動かしたりできるようになります。

3.前庭覚(平衡感覚)
耳の奥(内耳)で感じる、身体の傾きやスピード、回転の感覚です。姿勢を保ったり、眼球の動きをコントロールしたり、平衡感覚を維持したりするのに不可欠な感覚です。平衡感覚は、学習時の姿勢の維持にも影響します。

感覚統合がうまくいかない状態とは

感覚統合がうまくいっていない状態は、脳に入ってくる情報が整理されず交通渋滞を起こしている状態です。目、耳、皮膚、筋肉などから絶え間なく送られる情報が脳内で混線するため、処理が遅れたり、誤って解釈されたりします。情報が正しく統合されないため、子どもは環境に適応した行動(出力)をとることが難しくなります。

具体的には、大きく分けて感覚の感じ方の偏りと、身体の動かしにくさという2つの形で困りごとが現れます

感覚の感じ方の偏り(過敏と鈍麻)

脳が感覚刺激の受け取り方を適切に調整できないと、刺激を極端に強く感じたり、逆に感じにくかったりします。

・感覚過敏(感じすぎる)
特定の刺激を非常に強く、不快に感じてしまう状態です。例えば、掃除機の音を怖がって耳を塞ぐ(聴覚過敏)、服のタグや縫い目がチクチクして着られない(触覚過敏)、給食のにおいで気分が悪くなる(嗅覚過敏)などがあります。常に不快な刺激にさらされ緊張状態にあるため、イライラしたり、パニックになったりしやすくなります。

・感覚鈍麻(感じにくい)と感覚探求
刺激に対して反応が鈍く、情報が脳に十分に届いていない状態です。例えば、名前を呼ばれても気づかない、転んで怪我をしても痛がらないといった様子が見られます。また、脳に届く刺激が不足しているため、自分からぐるぐると回ったり、壁に身体を強く押し付けたりして、強い刺激を求めようとする感覚探求という行動をとることもあります。これは、一見すると落ち着きがない行動に見えますが、本人は無意識に脳を目覚めさせようとしているのです。

協調運動の困難(不器用さ)

複数の感覚をまとめて、動きを計画・実行する働き(運動企画)がうまくいかない状態です。

・力のコントロールと姿勢の保持が難しい
自分の身体の幅や位置関係が掴みにくいため、ドアによくぶつかったり、人との距離感が近すぎたりします。また、力加減のコントロールが苦手で、おもちゃをすぐに壊してしまったり、鉛筆の芯を折ってしまったりすることもあります。特に、姿勢を保つ感覚(前庭覚)や筋肉の感覚(固有受容覚)がうまく働かないと、椅子に座っていてもすぐに姿勢が崩れてしまい、集中力がないと誤解される原因にもなります。

感覚統合療法のねらいと効果

感覚統合療法とは、子どもが「楽しい!」と感じる活動を通して、脳が感覚を処理・学習する能力を向上させることをねらいとしています。

遊びを通して脳の機能を整える

感覚統合療法では、子どもが自ら選び、主体的に取り組む遊びを最も大切にしています。遊びは訓練としてではなく、その子どもが今必要としている感覚刺激を満たす役割をしています。例えば、前庭覚が不足している子どもが自発的に回転する遊具を選んだり、固有受容覚が不足している子どもがジャンプを好んだりするのを尊重し、遊びの中に取り入れます。

そのように、指導者は子どもの欲求を理解し、安全な環境を提供することで、子どもの脳が感覚に対して適切な処理方法を学習できるように導きます。

適応反応を引き出す

感覚統合療法の本質は、刺激を与えることではなく、適応反応を引き出すことにあります。適応反応とは、入力された感覚情報に対して、子どもが環境に適応するために見られる行動のことです。

例えば、揺れるブランコの上でボールを捕るという課題に子どもが挑戦し、成功したとします。このとき、バランスをとる(前庭覚)、ボールの位置を見る(視覚)、手を伸ばす(固有受容覚)という複数の感覚が脳内で瞬時に統合されています。この「できた!」という成功体験(適応反応)こそが、脳の成長を最も強く促します。この小さな成功体験を積み重ねることで、子どもの自己肯定感も高まります。

対象年齢は何歳までか

感覚統合療法は何歳まで受けられるのか、適している年齢は何歳までか気になる方もおられるかもしれません。
感覚統合療法の効果が最も高いのは、脳の可塑性(変化しやすさ)が高い幼児期から小学校低学年の学童期です。多くの専門機関でもこの時期に集中的な療育を行います。

しかし、何歳までという厳密な制限はありません。思春期や大人であっても、感覚統合の視点を取り入れた環境調整や作業療法を行うことで、生活のしやすさは改善できることが知られています。年齢にかかわらず、今、その人に必要な感覚経験を提供することは有効です。本人が自分の感覚のニーズを理解することも、生涯にわたって重要です。

家庭や学校でできる遊びの実践例

特別な大型遊具がなくても、感覚統合の視点を取り入れた遊びは、工夫次第で家庭や学校でも実践できます。大切なのは楽しみながら行うことです。

固有受容覚を育てる遊び

筋肉や関節にしっかりと使う、圧縮・伸張の活動は、身体の意識を高めたり、落ち着きをもたらしたりするのに役立ちます。

・力比べ遊び
親子で手押し相撲をする、バスタオルを使った綱引きなど、かかる力に対し抵抗して力を発揮する経験が固有受容覚を刺激します。

・重いものを持つお手伝い(ヘビーワーク)
買い物袋や水の入ったペットボトルを運ぶ、洗濯かごを押す、布団を敷く・しまうなど、両手でしっかり握って行う家事を遊びに変えます。教室では、机や椅子を移動させる手伝いをさせるのも効果的です。

・圧迫遊び
クッションや布団で身体を挟んであげる(サンドイッチ遊び)、伸縮性のある袋(ボディソックス)に入って全身に圧をかける遊びも、落ち着きをもたらすおすすめの方法です。

前庭覚を育てる遊び

揺れ、回転、スピード、傾きなどを感じる遊びを取り入れます。前庭覚が過敏な子どもには、必ず緩やかな動きから始め、回転は目を離さず、短時間で終わることが大切です。

・公園の遊具など
ブランコ(揺れ)、すべり台(スピードと傾き)、シーソー、回転椅子などを使って遊びます。

・室内での安全な遊び
バランスボールでいろんな姿勢をとる、布団の上でゴロゴロと転がるロール遊び、大人の体の上で飛行機のように揺らしてもらいます(揺らし遊び)。

・バランス遊び
縁石の上を落ちないように歩く、片足立ちでかかしのポーズをとります。

触覚を育てる遊び

さまざまな素材の感触に触れ、「気持ちいい」「面白い」と感じる経験を積み重ねます。触覚過敏な子どもには、まずは自分の意思で触れることを許可し、背中や頭など触覚が穏やかな部分から優しく触れるなど、段階を踏むことが大切です。

・素材遊び
砂場遊び、泥んこ遊び、粘土遊び、小麦粉粘土やスライム、寒天など、異なる感触の素れを用意するのも良いでしょう。

・水遊び・お風呂遊び
お風呂の時間に、少し硬めのタオルやボディブラシで、本人にとって心地よい圧をかけながら身体をこすってあげます(圧迫刺激を与えます)。

・手先を使う遊び
小さな部品を箱から箱へ移す作業、洗濯バサミをつまむ、パズルなどで、手指の細かい作業を行います。

感覚統合を学びたい人向けの資格

感覚統合の知識は、子どものサポートに携わるすべての人にとって有効です。学びたいと考える方のために、専門職の資格と学習方法を紹介します。

専門職向けの資格

感覚統合療法を専門的に実施し、診断や訓練計画を作成できるのは、国家資格を持つ作業療法士(OT)です。

・認定資格
作業療法士免許を持った上で、日本感覚統合学会が主催する講習会(基礎コース、応用コースなど)を受講し、臨床経験などの要件を満たすことで、「感覚統合療法学会認定セラピスト」などの資格を取得できるようになります。これは、非常に高い専門性を示すものです。

・倫理的注意点
資格を持たない人が感覚統合療法を名乗って医療行為や専門的な評価を行うことはできません。知識を活用した遊びや環境調整と、専門的な療法は明確に区別することが重要です。

教育関係者や保護者が学べる方法

医療系の国家資格がなくても、感覚統合療法を学びたい人が、理論や知識を学ぶことは可能です。

・感覚プロファイルの分析
まず、子どもの行動を感覚が過剰に反応している(過敏)のか、感覚を求めている(鈍麻)のかという視点で記録・分析することが重要です。保護者向けのチェックリスト(例:感覚プロファイルチェックリストなど)を活用し、子どもの感覚が過敏か鈍感かを把握します。

・研修会・セミナー
発達支援に関わる民間団体やNPO法人が、保育士や教員、保護者など感覚統合を学びたい人向けに、感覚統合をテーマにした研修会を開催しています。

・書籍での学習
感覚統合に関する入門書や、具体的な遊びを写真付きで紹介した実践書が多く出版されています。まずこうした書籍から理論の基礎を学ぶことがおすすめです。

資格がなくても実践できること

療法としての厳密な感覚統合療法を行うには専門的な知識と技術が必要ですが、感覚統合の視点を日々の保育や子育てに取り入れることは、誰にでもできる支援です。

・カームダウンスペース
教室やリビングの一角に、感覚の調整ができる場所(カームダウンスペース)を設けることも効果的です。光や音を遮るテント、重さのあるブランケット(ウェイトブランケット)、座ると少し不安定になるバランスボールチェアなどを活用します。これは、感覚過敏な子どもにとって「自分で安心を取り戻せる場所」となり、パニックの予防につながります。

・環境調整
聴覚過敏の子どもにはイヤーマフや耳栓の使用を許可する、視覚過敏の子どもには部屋のポスターや飾りの数を減らすなど、不快な感覚刺激を減らす工夫をします。

・ニーズの提供
落ち着きがない子どもに対して「じっとしなさい」と叱るのではなく、「今、固有受容覚の刺激が足りていない」と考え、トランポリン(跳躍遊び)をして刺激を入れるなどの工夫をします。

・専門家との連携
専門家(作業療法士)と連携し、家庭や学校でできる支援方法の具体的なアドバイスをもらうことが重要です。

感覚統合療法についてのまとめ

感覚統合療法とは、脳に入ってくるさまざまな感覚を整理し、統合する能力を、子どもが主体的に楽しめる遊びを通して育てるアプローチです。特に、「触覚」「固有受容覚」「前庭覚」という3つの基礎感覚が、子どもの発達を支える重要な土台となっています。

感覚統合の困難さは、不器用さや落ち着きのなさ、学習の困難など、生活全般に影響を及ぼします。専門的なセラピストによる療育だけでなく、家庭や学校でも、感覚統合の視点を取り入れた遊びや関わりを実践することは十分に可能です。
子どもの困った行動の背景に、もしかしたら感覚の問題が隠れていないか?その視点を持つことが、子どもへの理解を深め、適切なサポートにつながります。

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