【心理士解説】子どもの“自己愛傾向”が心配?「自己愛性パーソナリティー障害」の兆候と向き合う方法
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「うちの子、ちょっと自己中心的?」そんな不安を感じたことはありませんか?
最近、SNSや教育現場でも話題に上がる「自己愛性パーソナリティー障害(NPD)」。
一見すると「自信がある」「リーダータイプ」と思われる子が、実は他人に共感できなかったり、ちょっとした批判に過剰に反応したりしていませんか?
今回「子どもの自己愛傾向」に悩む保護者の方に向けて、自己愛性パーソナリティー障害の初期兆候・事例・対応法をわかりやすく解説します。
目次
- 自己愛性パーソナリティー障害とは?
- 【実例】自己愛傾向が強い子どものケース
- なぜ子どもに“過剰な自己愛”が育つのか?その原因は?
- 保護者にできる対応と予防策
- まとめ
自己愛性パーソナリティー障害とは?
どんな障害?
自己愛性パーソナリティー障害(Narcissistic Personality Disorder)は、自分を特別視し、他人からの称賛を過度に求める一方で、他人の気持ちを軽視してしまう性格傾向が慢性的に続く障害です。
米国精神医学会のDSM-5において、正式に精神疾患として分類されています。
表面的には自信過剰に見えますが、内面では自己評価が脆く、深い劣等感や不安を抱えているのが特徴で、実は周囲を傷つけ、人間関係に深刻な問題を引き起こしているケースが少なくありません。
このため、些細な批判などの自己愛を脅かされたことをきっかけに「ナルシスティック・レイジ(自己愛的怒り)」という、極度な怒り・攻撃・防衛反応で、「正常な怒り」を超えたコントロールできない激しい反応を起こしたりします。
18歳未満ではなかなか診断自体はつきませんが、その兆候は子ども時代から見られることがあります。
子どもの“自己愛傾向”に見られる特徴
子どもはそもそも自分中心に物事を捉える傾向がありますが、以下のような行動が継続的に目立つ場合は過度に自己愛が強い傾向にあると思われます。
• 他人の成功を素直に喜べず、過剰な賞賛を求める
• 批判を極端に嫌がり、怒り出す
• 自分が注目されないと不機嫌になる
• 「勝ち」に異常にこだわる
• 嘘や誇張で自分を良く見せようとする
• 他人の気持ちに無関心、共感しにくい
• 他人を羨ましく思う、または他人から羨まれていると信じる
これらは必ずしも障害ではありませんが、強く固定化されると対人関係や自己評価に深刻な影響を与える可能性があります。
自己愛は誰にでも存在する自然な感情ですが、障害と以下のような差異があります
健全な自己愛 | 自己愛性パーソナリティー障害 |
---|---|
自信がある | 誇大妄想的に自分を特別視 |
他者の気持ちに配慮できる | 共感性が著しく欠如している |
自分の弱さも受け入れられる | 自尊心が脆く、批判に激怒す |
【実例】自己愛傾向が強い子どものケース
事例①:中学生のAくん(14歳)
Aくんは学業成績も良く、スポーツでも活躍している目立ちたがりタイプ。だが、自分より目立つ友人が出てくると悪口を言いふらし、相手を貶めようとする。SNSでの評価にも敏感で、批判的なコメントがあると激しく落ち込んで学校を休むことも。
→「自分は特別でなければならない」というプレッシャーが強く、承認を得られないと自己評価が崩れてしまうケース。
事例②:小学生のBちゃん(10歳)
Bちゃんは絵が得意で、学校の作品展で賞を取った経験もある。周囲から褒められると非常に喜ぶが、自分以外の子が注目されると急に機嫌を損ねたり、仲間外れにする行動が見られる。
→「自分だけがすごいと思われたい」という強い欲求が、他者との健全な関係性を阻害しているケース。
なぜ子どもに“過剰な自己愛”が育つのか?その原因は?
それは「持って生まれた気質・遺伝的素因」と「生育環境」の複合的な要因からと言われています
1. 過剰な賞賛や甘やかし
「あなたは特別」「うちの子は何でもできる」など、子どもを過度に褒めたり持ち上げたりし続けると、現実と合わない「理想的な自己像」が形成され、ちょっとした挫折にも耐えられなくなる可能性があります。
結果:自分を“偉大”だと信じる一方で、内心では「本当にそうなのか」と怯えるようになります。
2. 愛情が“条件付き”で与えられている
「いい子にしてないと愛されない」「成功しないと親に褒められない」という環境は、本来の子どもの「無条件で愛されたい」という欲求を抑圧します。継続してそのような環境で育つと、愛情を得るために子どもは「本当の自分では不十分」と感じ、評価される自分だけを演じようとするようになります。
結果:「人に認められていないと、自分の価値がない」と思い込むようになり、過剰な自己演出や賞賛の欲求が生まれます。
3. 承認欲求が肥大化する環境(SNS・競争社会)
「いいね」やフォロワー数が可視化されるSNSは、子どもにとって自己価値を外部評価で測る環境です。
また、成績・スポーツ・習い事など、結果が重視されやすい社会構造も影響します。
結果:外からの承認が得られないと不安になり、常に「目立つ自分」でいようとする自己愛傾向が強くなります。
4 .失敗や否定体験を受け止めてもらえなかった
失敗や悩みを共有しようとしたときに、怒られたり無視されたりした経験が続くと、子どもは「弱い自分は見せてはいけない」と学び、完璧な自分を装うことに執着するようになります。
結果:傷つくことや恥を避けるために、過剰な自己防衛=自己愛的ふるまいが強まります。
保護者にできる対応と予防策
何よりも優先させることとして、子どもの過剰な自己愛の裏に隠された心理的背景”自分には価値がないかもしれない” という自尊心の脆さと深い不安、傷つきやすい心が隠れていることを知ってください。
1. 結果よりも「過程」を褒める
「点数がすごい」より「よく努力したね」といった声かけで、評価の軸を内側に移す手助けをしましょう。
2. 失敗や劣等感を否定しない
「できなくても大丈夫」「悔しかったね」といった言葉で、負の感情も受け止めてあげることが大切です。
3. 共感性を育てる体験を増やす
物語を読む、人の立場に立って考える、ボランティア活動などが他者視点を学ぶきっかけになります。
4. 境界線(バウンダリー)を意識する
「他人も自分と同じように大切」という意識を育てるために、自己と他者を区別する感覚を家庭で伝えることが重要です。
早めに相談すべきサインとは?
以下のような状態が半年以上続く場合は、スクールカウンセラーや児童精神科などの専門家に相談するのがおすすめです。
• 周囲とのトラブルが頻発している
• 情緒の波が激しく、コントロールできない
• 自己否定が強く、うつ状態に近い
• 家族内でも極端な支配・従属関係がある
まとめ
子どもの自己愛は「悪」ではない。親子で“バランス”を育てていこう
「自己愛」は本来、健全な自信につながる大切な要素です。しかし、それが過剰になったり、他者とのバランスを崩すと、人間関係のつまずきや自己評価のゆがみにつながってしまいます。
賞賛だけでなく、共感と限界も教える中で、子どもは本当の意味で「自分を好きになれる」ようになります。何よりも保護者として大切な事は、その裏にある脆さや不安を見つめ、受け入れ、支えることです。