原始反射とは?原始反射を知り発達の不安を解消

「うちの子、大きな音がするとビクッとして泣き止まない」「もう歩ける年齢なのに、よく転ぶし動きがぎこちない」「姿勢が悪くて、食事中や勉強中にすぐにぐにゃっとしてしまう」
子育てをしていると、こうした子どもの様子に「発達が遅れているのではないか」「育て方が悪かったのだろうか」と不安を感じる場面があるかもしれません。インターネットで検索をして、原始反射という言葉にたどり着いた方もいらっしゃるでしょう。
原始反射とは、すべての赤ちゃんが生まれながらに持っている生きるための機能です。しかし、成長とともに自然と消えていくはずのこの反射が、何らかの理由で残ってしまうことがあります。それが、子どもの不器用さや落ち着きのなさといった困りごとの原因になっている場合があるのです。
この記事では、原始反射とは何か、その種類や役割について簡単に解説します。また、原始反射が残存することで生じる発達への影響や、発達障害との関係、そしてご家庭でできるサポート方法についても詳しく紹介します。
原始反射とは何か?役割を簡単に解説

原始反射とは、赤ちゃんが生まれつき持っている、特定の刺激に対する無意識で自動的な反応のことです。大脳(考える脳)ではなく、脳幹や脊髄(生きるための脳)によってコントロールされているため、本人の意思とは関係なく身体が勝手に動いてしまいます。
赤ちゃんの生命維持に関わる原始反射の役割
なぜ赤ちゃんにはこのような反射が備わっているのでしょうか。その主な役割は、胎児期から乳児期にかけての生命維持と、その後の成長の土台作りです。
1.生きるための機能
おっぱいを吸う、危険から身を守るなど、生まれてすぐに生きていくために不可欠な動きを助けます。
2.出産の補助
狭い産道を通って外の世界へ出てくる際、身体を回旋させたり縮こまらせたりする動きを助けます。
3.発達の土台作り
重力に対して姿勢を保つ、筋肉のトーン(張り)を整える、目と手の動きを連動させるなど、将来的な運動機能や学習能力の基礎を作ります。
原始反射が消える発達の仕組み
通常、原始反射は成長とともに見られなくなります。これを反射の統合と呼びます。反射が消えてなくなるわけではなく、脳が発達し、より上位の中枢(大脳皮質)が働くようになることで、原始反射が出ないように抑制(コントロール)できるようになるのです。
例えば、赤ちゃんの手のひらに指を置くとギュッと握り返してくるのは把握反射ですが、成長すると自分の意思で「握る」「離す」ができるようになります。このように、無意識の反射的な動きが、意識的なコントロール下の動きへと置き換わっていくことが、正常な発達のプロセスです。多くの原始反射は、生後数ヶ月から1歳頃までには統合されていきます。
なぜ原始反射が残存してしまうのか
本来であれば統合されるはずの原始反射が、幼児期や学童期、あるいは大人になっても強く残ってしまうことがあります。これを原始反射の残存と言います。原因は完全には解明されていませんが、以下のような要因が影響していると考えられています。
・妊娠中や出産時のストレスやトラブル
・乳児期の運動経験(ハイハイなど)の不足
・脳神経系の発達のアンバランス
原始反射が残っていると、脳は無意識に出そうになる反射を抑え込むために、常に余計なエネルギーを使い続けなければなりません。そのため、疲れやすかったり、本来の能力を発揮できなかったりする状態に陥りやすくなります。
赤ちゃんに見られる原始反射の種類と具体的な例

原始反射には多くの種類がありますが、ここでは子どもの発達や学習、日常生活への影響が大きい代表的なものを6種類紹介します。
モロー反射
モロー反射は、赤ちゃんが大きな音を聞いたり、急に頭の位置が変わったりしたときに、驚いて両手を広げ、何かに抱きつこうとするような動作をする反射です。これは、外敵や落下などの危険から身を守り、親に助けを求めるための防御反応です。
探索反射と吸啜反射
探索反射は、頬や口元に何かが触れると、その方向に顔を向けて口を開く反射です。吸啜(きゅうてつ)反射は、口に入ってきたものを無意識に強く吸う反射です。これらは、赤ちゃんが目が見えなくても母親のおっぱいを探し当て、栄養を摂取するために欠かせない反射です。
緊張性迷路反射と対称性緊張性頸反射
これらは、身体の姿勢やバランスに関わる反射です。
緊張性迷路反射(TLR)
頭の傾き(位置)に合わせて、全身の筋肉の伸び縮みが変化する反射です。仰向けになると手足が伸び、うつ伏せになると手足が曲がりやすくなります。重力に対して姿勢を保つ練習になります。
対称性緊張性頸反射(STNR)
四つん這いの状態で、首を下に曲げると腕が曲がって足が伸び、首を上に反らすと腕が伸びて足が曲がる反射です。ハイハイをするための準備段階として重要です。
把握反射
把握反射には、手のひらに触れたものを握る手掌把握反射と、足の裏に触れたものを指で握ろうとする足底把握反射があります。親にしっかりとしがみつくための機能であり、将来的に物を掴んだり、足の指で地面を捉えて歩いたりする動作の基礎となります。
足の裏の反射が残っていると、足の指で地面をしっかりと踏ん張ることができず、転びやすかったり、和式トイレのようなしゃがむ姿勢がとれなかったりすることもあります。手の反射の残存は、鉄棒が苦手、ボールをうまく投げられないといった運動面だけでなく、給食でお箸がうまく使えないといった生活面にも影響します。
原始反射の残存が発達障害の特性と似る例

原始反射が統合されずに残存していると、日常生活のさまざまな場面で困りごとが生じます。その様子は、ADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)、DCD(発達性協調運動障害)といった発達障害の特性と非常によく似ていることがあります。
姿勢と運動能力への影響
TLR(緊張性迷路反射)が残存していると、重力に対して姿勢を保つことが難しくなります。椅子に座っていてもすぐに背中が丸まったり、机に突っ伏してしまったりするのは、やる気がないからではなく、頭の位置を保つだけで精一杯だからかもしれません。また、バランス感覚が悪く、何もないところで転びやすい、乗り物酔いをしやすいといった特徴も見られます。
STNR(対称性緊張性頸反射)が残存していると、上半身と下半身の動きを別々にコントロールすることが苦手になります。姿勢が悪く、椅子に座るときに足をぶらぶらさせたり、正座の足を崩したような座り方(W座り)を好んだりします。体育の授業で、跳び箱やマット運動などの協調運動が極端に苦手な場合も、この反射の影響が考えられます。
学習面や集中力への影響
学習に必要な見る力や書く力にも影響を及ぼします。
ATNR(非対称性緊張性頸反射)という反射が残っていると、顔を向けた側の腕が勝手に伸びようとしてしまいます。そのため、文字を書こうとして手元を見ると腕が伸びてしまい、それを無理やり曲げて書くために強い筆圧が必要になり、すぐに手が疲れてしまいます。また、視線のコントロールが難しく、黒板の文字をノートに書き写す作業(視線の移動)がスムーズにできず、板書に時間がかかったり、行を飛ばして読んだりしてしまうこともあります。
さらに、姿勢を保つだけで精一杯の状態は、例えるなら不安定なバランスボールに乗りながら勉強しているようなものです。これでは集中しようと思っても、脳のエネルギーのほとんどを姿勢制御に使ってしまい、先生の話を聞く余裕がなくなってしまいます。学習に取り組む以前の段階で、すでにヘトヘトに疲れてしまっているのです。
不器用さや落ち着きのなさとの関係
モロー反射が残存していると、脳が常に「危険だ!」というアラームを鳴らし続けているような状態になります。そのため、感覚過敏(大きな音や光、肌触りを嫌がる)になりやすく、常に周囲を警戒してソワソワと落ち着きがなくなります。また、感情のコントロールが難しく、些細なことで癇癪を起こしたり、新しい場所や変化に対して極度に不安を感じたりします。
把握反射が残っていると、手先の器用さが育ちにくく、鉛筆やお箸の持ち方がぎこちない、ボタンかけが苦手といった不器用さにつながります。足の裏の反射が残っていると、足の指で地面をうまく蹴ることができず、走るのが遅かったり、つま先歩きになったりすることがあります。
これらの行動は、ADHDの多動性や衝動性、ASDの感覚過敏やこだわりの強さと重なる部分が多く、見分けることが難しいケースも多々あります。原始反射の残存が、発達障害の特性をより強めている可能性もあるのです。
ご家庭で簡単にできる対応とサポート例

もし、「うちの子にも原始反射が残っているかもしれない」と感じたら、どうすればよいのでしょうか。家庭でできる対応について紹介します。
まずは専門家へ相談する大切さ
子どもの発達や行動について気になる点がある場合は、自己判断せず、まずは専門家に相談することが大切です。小児科、自治体の発達相談窓口、または作業療法士(OT)が在籍する療育施設などが相談先になります。専門家は、子どもの動きや反応を観察し、どの反射がどの程度残っているのか、それが生活にどのような影響を与えているのかを評価してくれます。
反射の統合を促す簡単にできる遊びの例
原始反射の統合を促すためには、特別な訓練よりも、全身を使った楽しい「遊び」が効果的です。子どもが「楽しい」と感じる動きの中に、統合に必要な要素が含まれています。
・ハイハイ遊び(STNRの統合など)
雑巾がけ競争や、トンネルくぐりなど、四つん這いで進む遊びは、上半身と下半身の連動や、首の動きと手足の分離を促します。
・バランス遊び(TLRの統合など)
バランスボールに座って弾む、一本橋を渡る、布団の上でゴロゴロ転がるといった遊びは、前庭覚(バランス感覚)を刺激し、姿勢保持の力を育てます。
・手遊び・粘土遊び(把握反射の統合)
グーチョキパーの手遊び歌、粘土をこねる、鉄棒にぶら下がるといった遊びは、手のひらの感覚を育て、指先のコントロール力を高めます。
・リラックス遊び(モロー反射の統合)
モロー反射が強い子は緊張が高いため、安心できる環境でスキンシップをとることが大切です。布団で海苔巻きのように身体を優しく包んで圧迫してあげる遊びや、ゆっくりとしたリズムで揺れるハンモック遊びなどがおすすめです。
親が知っておきたい接し方のポイント
最も大切なのは、子どもの行動をわざとやっているわけではない、と理解することです。姿勢が崩れるのも、落ち着きがないのも、脳の反射による無意識の反応である場合、叱っても本人の意思ではどうにもなりません。「何度言ったら分かるの!」と叱責することは、子どもの自己肯定感を下げ、二次的な問題(自信喪失、反抗など)を引き起こす原因になります。
「今はまだ反射が残っていて、身体をコントロールするのが難しい時期なんだな」と捉え方を変えるだけで、親の気持ちも楽になります。その上で、椅子に座りやすいように足台を置く、集中しやすいように机の周りを片付けるといった環境調整を行いながら、遊びを通して少しずつ発達を促していきましょう。
原始反射についてのまとめ
原始反射は、赤ちゃんの生命維持と成長に欠かせない機能ですが、成長とともに統合され、目立たなくなっていくのが通常です。しかし、何らかの理由で反射が残存すると、姿勢の悪さ、不器用さ、感情の不安定さ、学習の遅れなど、さまざまな困難を引き起こす原因となります。これらの特徴は発達障害と似ている場合も多くあります。
原始反射の残存は病気ではありませんが、放置すると子どもが生きづらさを抱え続けることになります。ご家庭で簡単にできる遊びを取り入れたり、専門家と連携して適切なアプローチを行ったりすることで、反射の統合を促し、困りごとを軽減することは十分に可能です。
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