何度言っても朝の準備が進まない」「宿題を始めても途中で別のことを始めてしまう」「約束を忘れてしまうことが多い」
毎日のように繰り返されるこうした場面に、つい声を荒げてしまうこともあるかもしれません。ですが、もしかするとこれらは「やる気がない」のではなく、実行機能の働きに理由があるのかもしれないのです。
この記事では、実行機能の意味やADHDなど発達障害との関係、家庭でできるトレーニング法を解説します。
実行機能とは?

実行機能とは、目標に向けて行動を計画し、調整し、やり遂げるための認知機能です。脳のなかでどのような役割を担い、日常のどんな場面で使われているかを知ると、子どもの行動を理解するヒントが見えてきます。
脳の司令塔としての働き
実行機能を担うのは、脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)と呼ばれる部分です。
人は計画を立てるとき、複数の情報を頭の中で整理するときに、この部分が活発に働くことから「脳の司令塔」とも呼ばれています。
前頭前野は生まれた時点では未成熟で、発達には長い時間がかかります。京都大学の発達心理学者・森口佑介氏の「実行機能の発達の脳内機構」によると、実行機能は3歳から5歳頃に大きく伸び、前頭前野の成熟とともに25歳頃まで発達が続くとされています。
したがって、子どもの「できない」は、脳がまだ育ちの途中にあるサインかもしれません。そう思うと、焦りよりも少し温かい目で見守れるのではないでしょうか。
日常のなかで使われる場面
実行機能は特別な場面だけで使われるものではなく、日常のあらゆる場面で働いています。
たとえば、朝起きてから学校に行くまでの準備を考えてみましょう。
「顔を洗う→着替える→朝ごはんを食べる→持ち物を確認する」の順番を頭のなかで組み立て、ひとつずつ実行する必要があります。また、友達と遊ぶ場面でも、相手の気持ちを考えながら自分の言いたいことを調整したり、ルールを守ったりするときに実行機能が働いています。
大人にとっては自然にできることでも、実行機能が発達途中の子どもにとっては大きなエネルギーを必要とするのです。
弱いとどんなことが起きるのか
「なぜできないの?」と感じる場面の多くは、実行機能の弱さが背景にあります。
宿題をやらなければならないとわかっていても、なかなか取りかかれません。片付けなければならないとわかっていても、何から手をつければよいか決められないことがあります。
ですが、本人に悪気はありません。脳の段取りをつかさどる機能がうまく働いていないだけです。
こうした様子を「性格の問題」「育て方の問題」と捉えてしまうと、叱ることが増え、子どもの自己肯定感を下げてしまう恐れがあります。
子どもを責める必要も、ご自身を責める必要もないのです。
実行機能の要素は?
| 要素 | 役割 | 日常での例 |
|---|---|---|
| 抑制 | 衝動を抑え、不要な行動を止める | 授業中に思いついたことをすぐ口にしない |
| 切り替え | ある活動から別の活動へスムーズに移行する | 遊びの時間が終わったら勉強に取りかかる |
| ワーキングメモリ | 必要な情報を一時的に頭に留めて作業を進める | 先生の指示を聞きながら行動する |
実行機能はひとつの力ではなく、複数の要素が組み合わさって成り立っています。
それぞれの要素を知っておくと、子どものどの部分に苦手さがあるのかが見えてきます。
抑制
抑制とは、衝動を抑え、不要な行動を止める力です。
授業中に思いついたことをすぐに口にしてしまうのではなく、「今は先生の話を聞く時間だ」と自分を制御するのが抑制にあたります。おやつを全部食べたくても「夕ごはん前だから少しにしよう」と我慢できるのも、この力が働いているからです。
切り替え
切り替えとは、ある活動から別の活動へスムーズに移行する力です。
遊びの時間が終わって勉強に取りかかる、算数の問題を解いた直後に国語の読解に移るなど、頭のなかの「モード」を変えるときに使われます。
切り替えが苦手な子どもは、好きな活動をやめられなかったり、予定の変更にパニックを起こしたりすることがあります。
ワーキングメモリ
ワーキングメモリとは、必要な情報を一時的に頭のなかに留めておきながら作業を進める力です。
たとえば、先生が「教科書の32ページを開いて、3番目の問題を解いてください」と指示したとき、ページ番号と問題番号の両方を覚えながら行動する必要があります。
ワーキングメモリが弱いと、途中で何をすればよいか忘れてしまうことが起きやすくなるのです。
遂行機能との違いは
「実行機能」と「遂行機能」は、どちらも英語の「executive function」の訳語として使われており、指す内容は基本的に同じです。
呼び方の違いは、分野による慣習に由来します。発達心理学や発達障害研究では「実行機能」が広く使われており、神経心理学やリハビリテーションでは「遂行機能」が使われる傾向があります。
苦手が出やすい場面とは?

実行機能の弱さは、日常生活のさまざまな場面で困りごととなって表れます。どの場面で苦手が出やすいかを具体的に知ると、適切なサポートにつなげられるでしょう。
朝の準備や宿題の段取り
朝の支度は、複数の作業を決められた時間内に順番どおりに行う必要があるため、実行機能をフル稼働させる場面です。
「着替え→歯磨き→持ち物確認」の流れを頭のなかで管理しながら実行することが難しく、毎朝同じところでつまずいてしまう子どももいます。
宿題も同様に、「何から取りかかるか」「いつまでに終わらせるか」の計画立てに苦労しやすいのです。
授業中や友達とのやりとり
授業中は、先生の話を聞きながらノートを取り、質問にも答えるなど、複数の作業を同時にこなします。実行機能が弱いと、聞くことに集中するとノートが取れず、書くことに集中すると先生の話を聞き逃してしまいがちです。
友達との会話でも、相手の話を聞きながら自分の発言を考える同時処理が必要なため、話の流れについていけなくなる場面が見られます。
気持ちの切り替えがうまくいかないとき
ゲームに負けたときに怒りが収まらなかったり、予定が急に変わると不安になったりすることがあります。こうした場面で子どもが感情をうまく切り替えられないのは、実行機能の発達と深く関わっています。
とはいえ、「気持ちの切り替え」は感情面の実行機能ともいえる力であり、発達途中の子どもにとっては特に難しい課題です。うまくいかない場面があっても、責めないであげてください。
実行機能とADHD

ADHDと実行機能には、深い関係があるとされています。
アメリカの臨床心理学者ラッセル・バークレー氏は、ADHDを「実行機能の障害」として説明する理論を提唱しました。ADHDのある子どもは、実行機能の複数の要素に苦手さを抱えていることが多く、具体的には以下のような特徴が見られることがあります。
- 抑制の弱さ:衝動的に行動してしまう
- ワーキングメモリの弱さ:指示を忘れやすい
- 切り替えの難しさ:ひとつのことにこだわりやすい
ただし、苦手な要素や程度には個人差があり、すべての子どもに同じ傾向があるわけではありません。「やる気がない」のではなく、「脳の働き方に特徴がある」と理解することが、関わり方を変える第一歩になります。
そう気づくだけで、いつもの声のかけ方が変わるはずです。そして、環境を整えたりトレーニングを取り入れたりすることで、困りごとを少しずつ減らしていくことができます。
実行機能とASD

自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもにも、実行機能に関する困りごとが見られます。
ASDと実行機能の関係
ASDのある子どもの実行機能は、要素によって得意・不得意の差が大きい点が特徴です。
とりわけ「切り替え(認知的柔軟性)」や「計画立て」の苦手さが目立つほか、興味のない活動への移行が難しい子が少なくありません。
支援の場では、視覚的なスケジュール表で見通しを持たせたり、予定の変更を事前に伝えたりする方法が有効とされています。特性の理解を深めながら適切なサポートにつなげたい場合は、専門家に相談することをおすすめします。
自宅で始める実行機能トレーニング

子どもの状況次第では「専門的な療育を受けさせたほうがいいのかな」と悩む親御さんがいます。もちろん専門家のサポートは心強いものですが、実行機能は日常生活のなかで少しずつ鍛えていくこともできます。
いくつか、家庭で取り組めるトレーニング法を見ていきましょう。
環境を整える工夫
実行機能のサポートで大切なのは、子どもが「自分でできた」と感じる経験を積み重ねることです。そのために効果的なのが、やるべきことを視覚的に示す工夫となります。
たとえば、朝の支度の手順をイラスト付きのチェックリストにして壁に貼っておくと、子どもが自分で確認しながら動けるようになります。「できたらシールを貼る」仕組みにすると、小さな達成感が積み重なり、次の行動への意欲につながりやすくなります。
また、持ち物の定位置を決めておく、タイマーで時間の区切りをつくるといった環境の工夫も有効です。「できない」のではなく「わかりやすい環境があればできる」という視点で、子どもの周りを少しずつ整えていきましょう。
日常に取り入れる練習法
実行機能は、日常の遊びや家事のなかで自然に鍛えることができます。
料理のお手伝いはその代表例です。「材料を用意する→切る→炒める→盛り付ける」という手順を考えながら動くことで、計画力や順序立てる力が自然に育っていきます。
遊びにおいては、トランプやボードゲームが効果的です。ルールを守る力(抑制)、相手の手を読む力(ワーキングメモリ)、負けたときに気持ちを切り替える力(切り替え)を、楽しみながら鍛えられます。
「練習させなければ」と力を入れなくても、親子で一緒に楽しめる場面が、実行機能を育むきっかけとなるのです。
声かけで意識したいポイント
「まず靴を揃えて、次にかばんを棚に置いてね」のように具体的に伝えることが大切です。指示はひとつずつ短く出すと、ワーキングメモリへの負担が減ります。
たとえば、このように言い換えてみてください。
| 伝わりにくい声かけ | 伝わりやすい声かけ |
|---|---|
| 「宿題やりなさい」 | 「まず算数のプリントを1枚やろう」 |
| 「片付けて」 | 「おもちゃを箱に入れてね」 |
| 「早くして」 | 「タイマーが鳴るまでに靴を履こう」 |
うまくいったときは「自分で順番を考えてできたね」と、プロセスを認める言葉をかけてあげてください。結果だけでなく過程を褒めることで、子どもが「自分でもできる」と自信を持てるようになります。
本当に少しずつで構いません。子どものペースに合わせて「できた」を積み重ねていきましょう。
実行機能のよくある質問
実行機能について保護者の方からよく寄せられる質問に答えます。
実行機能はいつから発達する?
実行機能の前駆的な発達は乳児期から始まり、3歳頃から急速に伸びていきます。3歳から5歳にかけて特に大きく発達し、小学校に入る頃には基本的な力が備わり始めます。
ただし、この力が完成するのは20代半ば(25歳頃)ともいわれており、子どもの時期はまだ発達の途中です。「年齢の割にできないことが多い」と感じても、発達のスピードには個人差があることを覚えておきましょう。
大人になっても伸びる?
実行機能は、大人になってからも改善の余地があることがわかっています。
環境の調整やトレーニング、習慣づけによって、実行機能の働きを補ったり強化したりできます。ただ、子どもの時期に身につけた工夫や対処法は、大人になってからも役立つことが多いため、今の時期にトレーニングに取り組む意味は大きいです。
実行機能についてのまとめ
実行機能とは、目標に向けて行動を計画し、調整し、やり遂げるための脳の働きです。抑制・切り替え・ワーキングメモリなどの要素で構成され、日常生活のあらゆる場面で使われています。
ADHDやASDのある子どもは実行機能に苦手さを抱えやすい傾向がありますが、これは「やる気の問題」でも「育て方の問題」でもありません。
視覚的なチェックリストやお手伝い、具体的な声かけなど、日常のなかでできることから少しずつ取り組んでいくことが大切です。ひとりで抱え込まず、専門家の力を借りながら、子どもに合った支援を見つけていきましょう。
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